デフ・ヴォイス ~法廷の手話通訳士~  丸山正樹

評価:★★★☆☆

 <おじさんは、私たちの味方? それとも敵?>
自分は、どちらなのだ?
――答えられるはずもなかった。

(本文引用)
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 今、私はある組織で、聾唖の女性と活動をしている。
 その組織では月に一度ほど会議があるのだが、彼女は毎回、2名の手話通訳士の方と共に出席している。そのおかげで、毎回スムーズに話し合いを進めることができている。
 さらに彼女は、皆が思い至らない事柄や暗黙の了解で済ませようとしがちな事項について、手話通訳士の方を通してきちんと質問をしてくれる。
 そのたびに「伝えたいことは臆せず伝えなければ、決して相手に伝わらないんだ。なあなあで済ませてはいけないのだ」と反省させられる。

 そういうわけで、私は書店で、平積みになった本書をすぐさま手に取った。



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 主人公・荒井は、聴覚にハンデはないが、巧みに手話を使うことができる。
 それは、彼が家族でただひとりの「聴者」だったからだ。両親と兄が「ろう者」であるなか、荒井だけ聴者として生まれ、家族と世間の橋渡しを続ける。

 荒井はかつて事務職員として警察に勤めており、ろう者の被告の手話通訳をするなど職場に貢献したが、ある理由で追われるように退職。現在は手話通訳士をして生計を立てている。

 そんなある日、一件の事件記事を目にする。それは、あるろう児施設の理事長が殺されたというものだった。
 その施設では、実は17年前にも理事長が殺されている。
 荒井は、ろう者と聴者双方立場から、2つの事件の真相を追う。
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 この物語は、2つの観点から楽しむことができる。

 まず1つは、ミステリーとして。
 最後の最後まで真相がつかめそうでつかめず、終盤に向かえば向かうほど目が離せなくなった。年末年始に、2時間~3時間スペシャルとしてドラマ化したら、非常に面白いものになるだろう。
 過去の事件が現在の事件につながっている、というのはよくあるストーリーだが、これはさらにひとひねり、ふたひねり加えられているので、全く飽きることなく読めた。

 そしてもう1つは、マイノリティーをとりあげた小説として。
 「あとがき」によると、著者・丸山正樹氏の奥様は、頚椎損傷により20年来重い障害を抱えているという。
 そんな経緯から、「何らかの障害を持っている人」を中心にすえた小説を書きたかったとのことだ。

 そんな熱い思いがあったにしても、この小説ほど「障害」について詳しく書かれたものは、そうそうないのではないか。
 手話の種類、先天的なろう者と中途失聴者との違い、社会における障害者の位置づけ、ハンデのある家族のなかでの健常者の思い・・・どれもこれも、今まで思い及んだことのないものばかりで、たいへん勉強になった。
 私も、同じ組織に属する聾唖の方と少しでも協働できるよういろいろ思案してきたが、本書を読み、それが全くの見当違いであり、かつ傲慢な考えであると知った。

 著者は、 

本作が、多くの人たちにとって「聴こえない人」や「手話」を理解する「入口」になってもらえれば幸いである。

 と綴っているが、私にとっては十分その役目を果たしてくれた

 著者は本作で作家デビューをしたとのことだが、ぜひ次作も読んでみたい。
 声なき声をすくいあげる小説を、また読ませてほしい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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