「歪笑小説」

「読めば感動できるけど売れない本と、中身はスカスカだけど売れる本。どっちが我々出版社にとってありがたいかは、いうまでもないだろ。俺たちは売れる本を作らなきゃいけないんだ」(本文引用)
______________________________

 昔、「バカヤロー!」という映画があった。
 先日急逝した映画監督・森田芳光氏が脚本・総指揮をした、オムニバス形式の映画だ。
 私はあの映画が大好きで、今でも忌野清志郎が歌う「サン・トワ・マミー」とともに思い出す。

 自分の理想を押し付けようとする恋人や、豪華な家族旅行を父親に迫る妻と娘、運転手の都合などお構いなしに、わがまま勝手なことを言うタクシーの乗客・・・。

 私たちの生活は、そんな「バカヤロー!」と叫びたくなる場面であふれている。
 
 そんなストレスフルな日常を、「笑い」という調味料で味付けした極上フルコースディナー「歪笑小説」。
 東野圭吾という希代の名シェフによる短編集である。



 舞台は大手出版社である灸英社。主な登場人物は、そこに勤める編集者たちだ。

 発行部数の採算に頭を悩ませ、ベストセラー作家の発掘に腐心し、たいして売れない小説誌の原稿集めに奔走し、売れっ子作家の機嫌をとるためには道端での土下座も辞さない・・・そんな粉骨砕身の日々を送る彼らが中心となって、12の物語は展開していく。
 
 そしてそんな編集者たちと共に戦うのは、当然作家たち。
 まさかのドラマ化に舞い上がり、自分までスター気取りの新人作家。
 完全に過去の人なのに、何を勘違いしたのか引退記者会見を開きたいと言い出す自称大御所作家。
 大物作家との付き合いのために、やったこともないゴルフに無理やり付き合わされる若手作家。

ikari.jpg
 作家と編集者という立場から、ありとあらゆる「バカヤロー!」な場面が登場し、実際にプッツンして相手にコーヒーをかける人もいれば、辛うじて壁を殴ることで解決する人も。

 登場する人々の職業が「作家」と「編集者」に限られているというのに、それを感じさせない多種多様な「人間奇想天外!」ぶりである。



 中でも面白かったのが、作家の婚約者が編集者と敵対する「天敵」
 
 ヒット作を出しながらも、その幻影に悩まされスランプに陥る作家が、そこから脱却しようと担当編集者と話し合う。
 そこに、作家の婚約者という女性が同席するのだが、彼女の干渉ぶりが凄まじい。

「ポリシーを曲げちゃだめ」、「一番のファンである私が言ってるんだから」
 ・・・と、編集者の意見をことごとく却下。
 しまいには「能無し編集者のくせにっ」と言い放ち、あわや刃傷沙汰か?という物騒な展開となる。

 こんなストレスだらけの物語をいくつも読まされたら、普通は落ち込んでしまいそうだが、それがまるで違う。
どれも、後味が実に良い。
 苦かったり辛かったり、甘すぎたり、まさに酸いも甘いも・・・の世界が「これでもか」と描かれているにも関わらず、読んだ後はひと言「あー、おいしかった!」と迷いなく言えるのだ。

 それはどの物語にも、愛情がたっぷり注ぎ込まれているからだろう。
 
 作家、編集者、その家族、そして何よりも読者・・・。
 その者たちに対する登場人物たちの愛情が、とてつもなく深い。
 
 「どうすれば、面白い本を書いてくれるのか」
 「どうすれば、面白い本を世に出せるのか」
 「どうすれば、面白い本を読んでくれるのか」
 
 そんな愛ゆえに・・・あまりの愛の深さゆえに、彼らは「バカヤロー!」と叫びたくなる衝動に駆られ、時に行動に移してしまう。
 この姿を爽快と言わずして、何と言おう。

 そして何より、さすが東野圭吾!と唸らせる見事などんでん返しや、最後の・・・本当に最後の1ページまで気の抜けない仕掛けも、後味の良さの秘密だ。そこはやはり、日本一の人気作家ならではの妙技であろう。

 「バカヤロー!」と叫びたくなったとき、叫ぶほどでなくても、何だかモヤモヤした複雑な気分になったとき・・・
 ちょっとでもストレスを感じたら、ぜひこの「歪笑小説」を。
 口の片側が引きつっていた笑顔が、口の両端が思いっきり上がった笑顔になること間違いなしである。
pinkuhana.jpg



ご購入はこちら↓
【送料無料】...

【送料無料】...
価格:650円(税込、送料別)

関連記事

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「歪笑小説」東野圭吾

新人編集者が目の当たりにした、常識破りのあの手この手を連発する伝説の編集者。自作のドラマ化話に舞い上がり、美人担当者に恋心を抱く、全く売れない若手作家。出版社のゴルフコ...
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告