となりのセレブたち  篠田節子

 星六つのゴージャスな人間性を喜ぶのは無責任なマスコミだけで、家族にとっては、自分と身内だけを大切にしてくれる偏狭な愛こそがうれしい。
(本文引用)
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 「無駄なお金の使い方」ひとつで、ここまで多様な物語が書けるとは。篠田節子氏の引き出しの多さと、超人的な発想力に改めて驚いた。
 とびきりリアルな話もあれば、とびきり非現実的な話もある。だけどどちらも、「今そこにある危機」を残酷なまでに浮かび上がらせている。現代日本のトロッコ列車に乗っていたら、この人たちみたいな悲劇(喜劇?)に陥ってしまうのかも。あー、怖い!
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 本書は5編から成る短編集だ。
 有閑マダムのお茶会が舞台の「トマトマジック」、自宅での居場所を猫に乗っ取られるキャリアウーマンを描く「蒼猫のいる家」、頭も心も体も完璧な老人を作ろうとする「人格再編」等々、「いかにもありそうな」話から、SFものまで多彩な内容だ。



 なかでも面白かったのが、第3話「ヒーラー」
 ある日、美と精力に貪欲な人間のあいだで、「吹き流し」という魚が話題にのぼる。
 その「吹き流し」という魚、不思議な性質を持っており、他の魚に自分の体を結び付けては、魚の身や内臓を吸い尽くしてしまう。そして人間の手で捕まえられると、吸い込んだものをドロドロにして体内から出すのだという。

 何とも不気味な魚なのだが、実は漁師の妻の間では、このドロドロが肌に良いと大評判。それを聞きつけたセレブ妻たちが、グループ内で「吹き流し」を使い回し、美肌を作り上げようと躍起になるのである(さながらヨーグルトの種菌といったところか)。
 一方、男性たちも、この「吹き流し」から様々な恩恵を受ける。ある者は鬱状態から解放され、ある者は「別のもの」が解放されて満足を得るのである。

 こうして日本全国で「吹き流し」が大流行するのだが、その結果、全国で大変な事件が頻発するようになる。

 これはかなりSFチックな話であり、読みながら「そんなものあるわけないだろ」と笑ってしまいたくなるのだが、ある意味、とてつもなく現実的な話ともいえる。

 何もかもを手に入れようと、見境なく行動すると、後でとんでもない損失を被ることになる。それがわかってもなお、人々は懲りずに薄っぺらい感動や見た目だけの幸福を求め、お金をばらまいていく。
 「吹き流し」という魚は実在しないにしても、「吹き流し」と似たような役割を課せられているものは、すでにある。それに狂喜乱舞し、後から健康番組が「嘘でした」と謝罪するなんていう事態は、誰の記憶にもあるだろう。

 本書に収められた5編は、お金で物事を解決しようとする人間たちの悲喜劇だが、貧富に関わらず「耳が痛い」と感じる読者は多いのではないか。
 ちょっと心にすきま風が吹いていたり、ちょっといけない妄想をしては現実逃避を試みたりしている人は、セレブであってもなくても一読の価値がある一冊。
 まずは手許にある1600円(税込1728円)をこの本に費やせば、後のお金の使い方は俄然変わってくるだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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