嘆きの美女  柚木麻子

「思い切って、苦手な領域に飛び込むことで見えてくるものもあんのかなって、最近思うようになった。少なくとも恨みやわだかまりからは解放される気がするんだよね」
(本文引用)
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 大学時代、私の自宅に、一人の男性から電話がかかってきたことがある。その男性とは、私の高校時代の友人の彼氏である。
 
 彼曰く、
 「●●さん(彼女)が、友だちがいないと落ち込んでいる。××さん(私)だけは友だちだと思っているみたいだから、電話でもしてあげてくれないか・・・」

 正直に言って、この電話には心底ビックリした。彼女がそんな悩みを抱えていたことなど、夢にも思っていなかったからである。
 彼の言うまま、私はその後すぐに彼女に電話をかけ、何気ない世間話をし、コンサートに行く約束などを取り付けた。



 その後、幸い事態は良い方向に向かったようだが、私は彼女がいったい何を悩む必要があるのか、と今までずーっと考えつづけていた。
 なぜなら、彼女はめちゃくちゃ美人だったからである(※韓流女優のイ・ヨンエ(チャングムの人)と相田翔子(元ウィンク)を合わせて、さらに美しくしたような感じ)。

 しかし、この小説を読み、その謎が解けた。
 「美人で性格も良い女性に、悩みなどあるわけがない」「その時点で人生、おおいに得をしている」といった周囲の認識こそが、彼女をひどく苦しめていたのだ、と。
 「絶対に失恋などするはずもない美人に、恋の悩みを相談しても仕方がない」といった周囲の妬みや諦観こそが、彼女の涙の理由だったのだ、と。
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 主人公の池田耶居子は、見た目が不自由な引きこもりニートである。
 耶居子の生きがいは、ネット上で罵詈雑言を浴びせること。なかでも標的にしているのは、美女同士が悩みを打ち明け合う「嘆きの美女」というサイトだ。

 耶居子は、日々そのサイトの掲示板を荒らしまくるのだが、それに飽き足らず、ついにサイト管理者らが集う店に赴き、盗撮することを思い立つ。彼女たちの写真を、ヲチ板にさらすためだ。

 実行当日、耶居子はついに現場を押さえるが、何とそこで車にはねられ重傷を負ってしまう。
 数日後、耶居子が目を覚ますと、そこは「嘆きの美女」たちが暮らす家のベッドの上だった。
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 まず、この本を読みたい人に一言だけ忠告しておく。

 「電車やバスの中では、決して読まないように」。

 なぜなら、かなり高頻度で「ブハッ」と笑える一言が登場するからである。
 もちろん物語全体も面白いのだが、とにかく「耶居子」という人物を表すディテールの描写が「あるある」すぎて、何度お茶を吹きそうになったことか。

 なかでも、耶居子が美女メンバーのひとりに「買ってきてほしいもの」を聞かれ、国友やすゆきの「新・幸せの時間」を思い浮かべる場面が最高。もうこれだけで「耶居子」の人間像が十二分に伝わってくる。
 
 他にも、耶居子の本棚に並ぶ漫画や、小学生の時に用意した誕生日プレゼント、刺青の男性を見て思い浮かべたことなど、どれもこれも「耶居子」らしさを表し尽くしており、何度も膝を叩きながら大笑いした。これほど見事なキャラクター作りを、私はかつて見たことがない。

 さてストーリーについてだが、内容はタイトル通り「美女にだって悩みがある」というものである。
 かといって、いわゆる「ブス」の耶居子がすっかり心を入れ替えたり、「やっぱり女は性格」と開き直ったりするわけでもないのが、またいい。



 大怪我を負ったばかりにパソコンに向かえず、その鬱憤を晴らすかのように、「ブス」なりに築き上げた人生哲学を「本物の人間」を前にぶちまけていく姿は、実に爽快だ。

 そして物語終盤、耶居子が残した「ちょっとキモい」コメントが、耶居子の身を助けることになるのだが、ここで現れる突然の「まさかのミステリー」には驚愕。
 このストーリーで暗号解読が出てくるとは・・・最後の最後まで読者の心をつかんで離さない著者の執念には心から恐れ入った。

 読みながら、ぜひ「美男美女の知り合い」を思い浮かべ、心の中で彼らに問いかけてみてほしい(実際に聞ければ、なお良し)。
 あなた自身がとびきり美しいならば、自分に問いかけながら読んでも良いだろう。

 美人で性格も良く、生まれた時から大幅にリードしていると思われる彼らは、いったいどんな「嘆き」を抱えているのか。
 本書と照らし合わせながら問うてみれば、今まで見えなかった「人生の不可思議さ、面白さ」が見えてくるかもしれない。

 ※文庫版巻末には、ドラマで耶居子を演じた黒沢かずこさん(森三中)の言葉を収録。これがまた「耶居子」そのもので、黒沢さんは北島マヤ並みに役に入り込める人なのだな、と尊敬の念を新たにした。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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