「プラハの春」

 「わたしは恐れたのです。あなたが、わたしのために破滅し、自爆してしまうことを。滅びの美学として、あなたは自己満足するかもしれません。しかしそれは間違いなの。わたしはペンテジレーアのように、直接その手にかけて恋しいリョウを殺さないまでも、わたしのために破滅させるようなことはしたくありません」(本文引用)
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 「アラブの春」・・・それは昨年、北アフリカ・中東諸国で起こった民主化運動であることはご存知だろう。
 長年、最高権力者の独裁に苦しんできた民衆が立ち上がり、強権支配を打倒。とはいえ問題は山積しており、解放された今でも雇用不安や経済危機にさらされている。本当の春には、まだ遠そうだ。

 そして遡ること44年前、この「アラブの春」という名前の元となった出来事があった。
 
 それは、1968年にチェコスロバキア(当時)で起こった民主化運動。
 チェコは長い闘いの果てに自由を手に入れたが、その影には、ある悲恋があった。

 東と西、社会主義と民主主義、この2つに分断された男と女。
 世界を分ける見えない壁に阻まれた禁断の恋。
 今回ご紹介するのは、そんな国際派ラブロマンス・春江一也著「プラハの春」である。

 


 第二次世界大戦後、世界は米国とソ連(当時)を中心とした東西冷戦に突入した。
 資本主義・民主主義の西側諸国、それに対し社会主義・共産主義を唱える東側。
 後にベルリンの壁が崩壊するとは考えられないほど、当時の世界は溶け合うことのない対立を見せていた。
 
 主人公・堀江亮介は、チェコスロバキアに駐在する若き外交官。
 チェコスロバキアは地理的に西側諸国と接する位置にあるものの、ソ連により「東側」にがっちりと抱え込まれていた。
 市民の自由は束縛され、言論の自由など、もはや叶わぬ状態である。
 そんなピリピリとした情勢のもと、亮介は西側から送られてきた外交官という、たいへん難しい立場にいた。
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 しかしある夜、亮介は一人の女性と運命的な出会いをする。
 女性の名はカテリーナ・シュナイダー。
 吸い込まれそうな青い瞳と、亜麻色の髪をもつ美しい女性である。
 
 そしてカテリーナもまた、夫と娘をもつ身でありながら、「またあの青年に会いたい」と思いを募らせる日々を送っていた。

 しかしその恋は、大変な障害を伴うものであった。
 亮介は西側の外交官。
 そしてカテリーナは東ドイツの人間であり、さらにシタージ(秘密警察)高官を夫に持ちながら、反体制活動の罪により執行猶予中の身であるという。
 
 東側のチェコにとっては、ともに危険人物として監視される立場の2人であった。

 しかしそんななか、チェコには確実に変化が起こっていた。
 改革派が次第に勢力を強め、自由を求める声が高まっていく。
 チェコスロバキア、そして亮介とカテリーナの運命は・・・?
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 本書を読むと、こうして読みたい本を読み、ブログで自由に感想を書いたり意見を述べたりすることができる自分の環境が、いかに恵まれたものかがわかる。

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 保守党に反する意見はすべて葬られ、言論だけでなく感性まで統制されるため、芸術を志す者はことごとく夢を打ち砕かれる。
 人を愛する自由すらなく、西への亡命を試みる者は、国境警備隊に容赦なく射殺される。
 
 国の偏った思想と行過ぎた束縛は、人間の尊厳というものを完全に否定するものだった。


 衣食住は足りても、そんな生活は生ける屍に他ならない――本書では、そのような環境がいかに苛酷であるかを、人々の生活や心の中にまで入り込み、細かく、そしてえぐるように深くリアルに描写している。
 
 それは、この小説が、春江氏自身の経験に基づいたものであるからだろうか。
 だとすれば、なおのこと本書には真摯に向き合わねばなるまい。
 
 一外交官として、いや一人の人間として危険な立場に追い込まれかねない体験を、こうして残してくれたこと。
 そして自由に考え、自由に行動するということがどれほど貴重なことであるかを、身をもって訴えてくれたこと。
 この春江氏の偉業は、どれほど賞賛の声を浴びても足りないものであろう。

 実は私がこの本を読んだのは、もう10年以上前のこと。
 あまりにも胸を打たれ、母親にも薦めたところたいへん気に入り、いつの間にか家族全員で回し読み、次兄など知らないうちに続編「ベルリンの秋」まで買っていた。

  


 さらにこの小説、宝塚で舞台化もされている。
 読み終わった直後から「これが宝塚で上演されたら素敵だろうなあ・・・」などと考えていたら、本当に舞台化され、すぐにチケットを取って観に行ってしまった。
 王侯貴族が出てくるような話ではないため、「ベルサイユのばら」のような華やかさはないものの、世界を舞台とし、また人々が己の思想に命をかけるという点では「ベルばら」に劣らない素晴らしい舞台であった。

 世界にはまだまだ、独裁による不自由な生活を強いられている人がたくさんいる。
 そして「アラブの春」は、そのことを露にした事件であり、今もなお戦いは続いている。
 「プラハの春」は、そんな今だからこそ読み、心に留め置くべき1冊である。

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よろしければこちらも。素晴らしい映画です!併せてご観賞ください。↓


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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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