漁港の肉子ちゃん  西加奈子

「でも、まあ、命はあるんやし!」
(本文引用)
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 こんなタイトルなのに、「すごおおおおっ!」とか「ばああああああっ!」とかヘンテコなセリフばかりなのに、難しいことなど何も書いてないのに・・・人生のバイブルにしたくなる小説だ。
 久しぶりに、心の奥がブルッブルと震えた。そしてその振動と共に、涙がボロッボロと落ちた。「最高!」だ。
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 主人公の肉子ちゃんは、本名・菊子。体はブクブクと太り、顔もお世辞にも美人とはいえない。頭も少々鈍い。
 そして人生はといえば、どうしようもない男たちにだまされつづけ、借金を重ねつづけるという、これまたお世辞にも幸せとはいえないものだ。
 しかし肉子ちゃんは底抜けに明るく情が深く、不思議と人々を惹きつける。



 そんな肉子ちゃんには、小5の娘がいる。娘は母親と違い、見目麗しいモデルのような容貌だ。頭も良く、いつも難しい本を読んでいる。ちなみに名前は喜久子。何と母娘共同じ「きくこ」なのだ。そんなところがまた、肉子ちゃんなのである。
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 この小説は、そんな肉子ちゃん親子の日常を綴ったものなのだが、何だろう、このきらめきは。とにかく一日一日が、過ぎ去るのがもったいないぐらい輝いているのである。

 かといって、格別ドラマチックなことが起きているわけではない。

 喜久子は、クラスの女子の勢力争いや裏切りに悩み、肉子ちゃんは家で「すごおおおいいいいいっ!」という謎の大いびきをかいて寝ている。
 喜久子は男子の視線や、少しずつ大人になっていく自分の体に不安を感じ、肉子ちゃんは「げっぷ出てしもたー!」と叫んでいる。

 肉子ちゃんのキャラクターは少々強烈であるにしても、描かれている日常はひたすら平凡だ。
 しかし、この物語を読んでいると、平凡であること、普通であることがいかに大切であるかがよくわかる。

 たとえば、こんなシーンがある。
 喜久子は、クラスの女子の仲間割れや陰口合戦にグッタリとしながら帰宅する。
 そんなことに気づきもしない肉子ちゃんは、喜久子に「今日はどんな日やったっ?」とうきうきしながら尋ねる。
 そこで喜久子が「別に。普通。」と言うと、肉子ちゃんは「普通が一番ええのんやでっ!」と笑顔で答える。
 そんな能天気な肉子ちゃんに対し、喜久子はいら立ちを覚え、最終的には脱力する。

 しかし物語終盤で、「普通が一番いい」という言葉に隠された、あまりにも大きな「肉子ちゃんの思い」が明かされる。

 ご飯を食べて、勉強して、働いて、お風呂に入って、寝る。子どもが体内に宿れば、それを大切に育み、生まれる日を指折り数え、生まれたらひたすら命をつなぐように育て、愛しむ。

 そんな「普通の生活」とは、実は非常に貴重なものであり、たいへんな努力で保たれている。菊子と喜久子のつながりは、その努力なしでは成り立たないことが、最後に明かされるのだ。

 そんな心の旅路を通った末の、喜久子のちょっとした心の変化が、またいい。
 大人だけでなく、喜久子と同じ年頃の女の子にも読んでほしい。いっそ、学校の課題図書にしても良いのではないか。思春期の子どもたちにとって、得るところ大の傑作である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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