テレビが伝えない憲法の話  木村草太

我々は、敗戦の屈辱感に苦しみ、それに呑み込まれ醜態をさらしてしまう人に対し、「突き放した尊敬」を示さなくてはならない。
(本文引用)
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 私は最近、木村草太氏を「憲法エンターティナー」と呼んでいる(語呂悪っ)

 「憲法の条件」を読んだ時にも思ったのだが、木村氏の手にかかれば、憲法はドキドキワクワクの楽しい読み物になり、頭にスイスイと入っていく。
 小難しくとっつきにくいことをムフフと読ませるストーリーテラーぶりは、歴史家・磯田道史氏と並ぶであろう。
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 本書のテーマは、「『憲法について考え、議論するのは、とても楽しい』ということを伝えること」だという。
 その志のもと、著者はなじみの商店街や家のリフォーム、カツラがバレバレの男性等身近なものを例にとり、巧みな比喩で憲法の定義や存在意義をていねいに解説していく。


 それも、タイトル通り「テレビを観ているだけではわからない憲法の深い謎」について触れているから面白い。読みながら何度も「ここまで考えたこともなかった!」と驚き、「なるほど、そういうことなのか!」と膝を叩いた。

 たとえば、私は子どもの頃から「天皇は日本国の象徴」という条文がどうにも不思議だった。白い鳩は平和の象徴などと言うが、一人の人間として意思も感情ももつ人間が、大きな陸地を持つ国の象徴であるとは、いったいどういうことなのだろう? ずっとそのような疑問を持っていた。
 が、嬉しいことに、そのモヤモヤが本書で氷解した。

 著者は、この条文について「人が象徴の役目を果たすことの長所・短所」という根本的な視点から解説し、「だから天皇は象徴なのだ」という結論に見事に着地させていく。さらに、そこから「国会議員が園遊会で天皇陛下に私信を渡した」事件を紹介することで、象徴天皇制についてより踏み込んだ解説をしていく。

 もし憲法の条文の中に、ひとつでも「これってどういう意味?」と疑問に思うものがあれば、ぜひ本書を読んでみてほしい。条文の意味がわかるうえに、日々報じられる出来事の“真の問題点”まで理解できるようになり、憲法や憲法関連の話題に触れるのがいっそう面白くなるだろう。

 そして、合憲・違憲を争った出来事としてはずせない「非嫡出子相続」問題についても、頭頂部から足の先までスーッと風が吹き抜けるように簡潔明快に解説。
 そもそも憲法14条1項の平等権とはどんな権利かを説明し、そのうえで「憲法14条1項違反に抵触しない2つの要件」をもとに、判決を理論的にきっちりと分析している。

 この「非嫡出子相続」問題は、「何の罪もない子どもを差別するなんて」とか「不倫は許せないから、相続に差があって当然」など感情論が交錯しがちだが、本書の解説には、どちらの立場の人も納得するに違いない。
 憲法は、なぜこのように定めているのか。このように定めるまでには、どんな背景があったのか。そのような、憲法の根っこのところから物事を見つめると、様々な立場の人の意見を尊重しながら理論的に解決することが可能になる。この発見は、私にとって非常に新鮮かつ貴重なものであった。

 本書では、このように「テレビが伝えない」憲法の基本の「キ」から様々な出来事を解説していくのだが、著者がここまで徹底的に懇切丁寧に憲法について説くのは、こんな思いがあるからだろう。 

「確かに、あれはカツラだったよね。でも、あの時、あの人のネクタイが床につくほど長かったのに気付いた?」


 もとい、
 

あまりにも分かりやすいものは、何かを強力に隠ぺいする。


 集団的自衛権、憲法改正・・・憲法9条と96条にまつわる論議は、声の大きい“極論”を吐く人に流されがちになる。極論は内容が「分かりやすい」ため、頭が疲れてきている人の心にスルリと入り込んでくるからだ。
 そして気がつけば、人々はもっと重要なものを見逃している。著者はそれを、バレバレのカツラばかりに目が行き、床につきそうな長いネクタイに気づかない現象に例えて警鐘を鳴らす。

 こう書くと、「この本はいったい全体、真面目なのかふざけているのか!?」とお思いかもしれないが、テーマはとにかく「憲法を楽しく学ぶこと」なのだから、これでよい。目的を十二分に達成している。
 そして気がつけば、そのような軽妙な比喩・文体のおかげで、疲れた頭にも「憲法にまつわる問題について、本当に見逃してはいけないこと」が浸み込んでいる。
 何だかすっかり、木村草太氏の手腕に魅了されてしまったようだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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