日本人ビジネスマン、アフリカで蚊帳を売る  浅枝敏行

「そこや。問題は。何をもってね、我々の商品を差別化するの? ここが前から気になってるんですよ」
(本文引用)
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 頭の中で、つい失敗した時のことをイメージしてしまう。始まる前から、あれこれ考えては深いため息をついてしまう。心配性で、なかなか未知の世界に足を踏み入れられない。本書は、そんな方にお薦めしたい一冊。
 「考える」のも大事だが、それ以上に「動く」ことが大事。いや、悩んでいる暇があったら動け! そう自分を奮い立たせたくなる、山あり谷ありの痛快サクセスストーリーだ。
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 住友化学で農薬・殺虫剤の研究をする伊藤は、マラリアやデング熱などの海外感染症に関わるプロジェクトチームに入れられる。
 ちょうどその頃、有力商品である殺虫剤スミチオンの事業縮小が余儀なくされ、会社としては、それに代わるマラリア対策を考えだす必要に迫られる。


 そこで行き着いたのが、「蚊帳」。

 しかも、ただの蚊帳ではない。糸の中に殺虫剤が入れ込まれており、長期間防虫効果が持続するという画期的な製品だ。

 しかし、蚊帳の先発商品や無償配布が浸透しているアフリカで、新製品を売り込むのは予想以上に厳しいものだった。
 どうすれば、シェアをとれるか。どうすれば、アフリカの人たちの目を向けさせることができるか。

 ビジネスマンたちは、大きな夢を胸に異国の地に踏み込む。
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 本書を読み、まず浮かんだ言葉は「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」だ。
 このプロジェクトでは、化学・マーケティング・交渉・営業・・・あらゆる分野からスペシャリストが集められるが、行き着くところは結局、自社製品の強みと、相手の現状やニーズとのすり合わせだ。
 殺虫効果はもちろん、網の目の大きさ、色、重さ、パッケージのデザイン等、隅々まで顧客の要望を意識しながら、先発製品との差別化を徹底的に図ろうとする彼らの姿には、ひたすら脱帽。「敵を知り――」の孫子の兵法も真っ青の戦いぶりである。

 さらに、敵は顧客だけではない。日本国内で売るのとは違う、思わぬ“世界の壁”が立ちはだかる。
 
 たとえば、マラリア対策の活動をしている海外の団体からは、こんなクレームがあったという。
 せっかく住民自身に蚊帳のメンテナンスをさせる(蚊帳を殺虫剤に漬けて乾かすという作業の繰り返し)ことを啓蒙しているのに、それが不要な商品を売り込まれるのは迷惑だ、と。
 おそらく日本国内だけで販売するのであれば、このようなクレームはなかったのではないかと思うが、ここに、世界を相手にする仕事の恐ろしさと面白さがあるのだろう。
 このように、常に思わぬところから敵がやってくる当プロジェクトの軌跡は非常に読み応えのあるもので、ぐいぐい惹きつけられた。

 そんな難関を次々と乗り越えて、終盤に登場する、地元の人へのインタビューがまた面白い。
 プロジェクトのメンバーが、スーパーで蚊帳を買った直後の客に、蚊帳の購買動機やどんな蚊帳を求めているかを聞き出す。そこから徐々に顧客が求めるものがあぶりだされていく状況には、思わず息をのんだ。 

エンドユーザーに対する、ラストワンマイルをどう攻略するのか――その答えを知るには、やはりラストワンマイルの現場に直行することが、最善の方策といえるだろう。


 頭だけでゴチャゴチャ考えずに、とにかく現場に出向き、徹底的に敵を知り己を知り策を練る。
 未知の市場で戦ったフロンティアスピリットの裏には、そんなシンプルな成功法則が読み取れる。読めば必ず、悩むより前に、大きな一歩を踏み出したくなることだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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