「世界一のトイレ ウォシュレット開発物語」

 夕映え、そよ風、せせらぎ、ひだまり・・・。日本にはこうした自然現象を表す多くの美しい言葉がある。自然とともに生きてきた日本人は、美しさを瞬間的に心に留める繊細な感性を日常的に育んできた。真の「気持ちのよい空間」とは、五感全てが気持ちよいと感じて成り立つ。(本文引用)
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 上記の文章は「何」について、いや、「どこ」について語ったものかおわかりだろうか。

 正解は、「トイレ」である。

 かつては「ご不浄」と呼ばれ、今でも「花を摘む」「雉を撃つ」など、どことなく語ることが憚られる「トイレ」。
 ないと困るものであるにも拘わらず、家の北側に作られ、何となく忌み嫌われている存在の「トイレ」。

 しかしここに、そのタブーに限りなく挑戦し、トイレを「人々が最高にくつろげる空間」にするという大革命を起こした者たちがいた。

 「世界一のトイレ ウォシュレット開発物語」
 これは、そんな勇士たちの汗と涙(とちょっと笑い)のドラマである。



 物語は、まずタイトルの通り、ウォシュレットが開発されるまでの道のりから始まる。

 まずウォシュレットというのは、トイレの存在位置そのものを変えるものだという。
 
 「陶磁器商品のひとつだった便器が、エレクトロニクス製品という位置付けになった」


 これだけ聞くと、ハイテク時代の現在にとって喜ばしいことばかりと思いがちだが、そんな簡単なものではない。
 水に濡れても繰り返し使える電化製品にすること――これがいきなり大きな難題となる。

 そしてそれをクリアしても、お湯の温度はどうか、水の勢いはどうか、高層の建物でも使えるか、どこまで節水できるか、そしてもちろん「的」は絞れるか・・・。

 なかでも最も難儀したのは、トイレに対する人々の固定観念を突き崩すことだった。
toilet.jpg


 何事も変化を起こすときには、人々からの抵抗は免れないものだが、殊デリケートなトイレのことである。

 お尻を洗う水と飲み水とが混ざるのでは、という行政の不安。
 ウォシュレットのCMに対する消費者からの苦情・・・。

 さらに開発チームのメンバーはアメリカに飛び、ウォシュレットを世界に羽ばたかせようとする。
 しかし、TOTOという企業名すら知らず、言葉も文化も違い、日本人では考えられないトイレの使い方をする(こともある)相手にウォシュレットの素晴らしさを伝えるのは、何枚もの岩を崩すよりも困難なものだった。

 普段何の気なしに使っているウォシュレットが、これほどまでの難関をくぐり抜けて私たちの元に到達してきたとは、もはや恐れ入るとしか言いようがない。

 そしてトイレを「どこよりも心地のよい空間」にするための挑戦は、まだまだ続く。

 脱臭、掃除のしやすさ、流し忘れの解消・・・。
 とにかく世界一のトイレ作りへの工夫は、「これでもか」というぐらい多岐に渡る。

venus.jpg
 なかでも面白かったのが「音姫」開発の話。

 男性諸氏には想像できないかもしれないが、トイレに行くこと自体が勇気を伴う女性にとって、使用中の音を聞かれることなど恥辱の極みである。

 その悩みを解消してくれる商品「音姫」開発までの経緯を、本書では平安に遡る「音消し」の歴史から紐解き、あらゆる面からじっくりと、実に細かく解説してくれている。

 かなり笑える部分(特に商品名の候補)も多いのだが、その熱意には脱帽である。


 「人々の暮らしを快適にしたい!真に気持ちのよい空間を作りたい!」
 その一心で発想を転換し、「常識」を打ち破ってきた彼らの姿には、心から敬意を表したい。
 電車内などで読むのはいささか勇気がいるかもしれないが、決して読んで損はない1冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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