憲法と平和を問いなおす 長谷部恭男

現実の世界でどれほど平和の実現に貢献することになるかにかかわりなく、ともかく軍備を放棄せよという考え方は、「善き生き方」を教える信仰ではありえても、立憲主義と両立しうる平和主義ではない。
(本文引用)
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 2015年7月16日は、戦後の日本にとって非常に重要な日となった。
 安全保障関連法案が衆院を通過し、いよいよ集団的自衛権行使に大きく舵を切ることとなったのだ。
 この法案審議は116時間にも及んだそうだが、そこで焦点となったのは、当法案の合憲・違憲論争である。(日本経済新聞2015/7/17朝刊より)。

 さて、そう聞くと、ふと「ならば、憲法と合っていさえすればよいのか?」という疑問もわく。また一方で、「現状が憲法に合っていない」「憲法は限界にきている」という見方もあり、いったい何をどうすれば人々は・・・いや、自分は納得がいくのかと悩んだ。


 そこで手に取ったのが、この本。
 本書では、憲法改正反対・賛成という以前に、「そもそも憲法とは何のためにあるのか」という根本的な視点から改正論議を見つめていく。そしてそこから、「人々が平和に共存して社会生活を営むうえで必要なこと」を根っこから考えていく。
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 本書の魅力は、文学作品の一場面から哲学的な問題まで非常に多様な観点で、「そもそもなぜ憲法が必要なのか」を説いていく点だ。

 たとえば、宗教と個人の良心との板挟みとなったハムレット、結婚か独身生活かに悩む「存在の耐えられない軽さ」のトーマス、人肉食を慣例とする部族、1人の命と大人数の命とをはかりにかける功利主義・・・。

 それらの問題から浮かび上がるのは、「比較不能な異なる価値観同士の対立」だ。
 自らの思想や宗教を最上のものと考えると、それと異なる者は「悪」とされ排除されてしまう。そうして排除された者は、理不尽さに立腹し、社会に深刻な亀裂を生じさせることとなる。

 そこで登場するのが、本書の主要テーマである「立憲主義」だ。
 立憲主義とは、一般に「個人の自由や権利を尊重するために権力者を憲法で縛ること」だが、著者はさらにこう定義づける。 

多様な価値観を抱く人々が、それでも協働して、社会生活の便益とコストを公正に分かちあって生きるために必要な、基本的枠組みを定める理念である。


 さらに著者は、こう述べる。 

立憲主義は現実を見るように要求する。世の中には、あなたとは違う価値観を持ち、それをとても大切にして生きている人がたくさんいるのだという現実を見るように要求する。


 そう、それは「自分の善や正義」はよそに置いておいて、「比較不能な異なる価値観」を持つ者を公平に認めることである。さらに、社会全体の利益を考える際には、己の価値観を持ち込むなということでもある。

 この論に照らすと、過去に違憲・合憲が争われた出来事――たとえば非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1としていた民法の規定、夫婦別姓に対する合憲・違憲論議――の問題点・争点がありありと見えてくる。
 そしてその「立憲主義」を突きつめて考えると、集団的自衛権の問題が違憲か合憲か、平和主義に反しているかという判断は、自分の思想・心情等から容易にはできないことがわかる。

 著者によれば、本書は、集団的自衛権等について強固な信念を持ち国会前に出向く人ではなく、「国家はなぜ存在するの?」「なぜ憲法に従わなければならないの?」といった「トッポイ疑問」をもつ人に向いているというが、本当にその通り。
 「憲法」「平和」「国家」「個人」について、ここまで根本的な視点から書かれているものは、そうそうないのではないかと思う。

 今回の安保法案衆院通過という、日本の大転換を機に、ぜひ読みたい一冊。
 本書で「立憲主義」等々の考え方のベースを作っておけば、安保に限らず、違憲・合憲が争われる事態について見方が変わってくることだろう。

詳細情報・ご購入はこちら↓


※功利主義や公共財の解説については、マイケル・サンデル教授の本も併せて読むと、より楽しめるではないかと思う。

「ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業」

「それをお金で買いますか」
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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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