ぼくらの民主主義なんだぜ 高橋源一郎

そして、この映像を見ていた者は、突然、この青年がぶつかって弾き飛ばされる「壁」の正体に気づくんだ。実は、その「壁」に、ぼくたちみんなが弾き飛ばされているってことにも。
(本文引用)
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 以前、ご紹介した「13歳からのテロ問題」に、こんな一節があった。

「テロを防ぐ最大の方法は、言論の自由が保障された開かれた世界を構築することである」


 この言葉を読んだ時、実は私はのんきなことに、こんなことを思っていた。
 「・・・それなら日本は、しばらく大丈夫なんじゃないかなぁ」

 しかし本書を読み、それは大間違いであることを知った。そして、足がすくんだ。
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 この本には、日本に現存する様々な「民主主義の壁」「自由な言論・思想の壁」が、怒涛のごとく登場する。

 原発問題、閉鎖的な教育現場、企業におけるマタハラ・セクハラ、ヘイトスピーチ、貧困の連鎖、イスラム過激派によるテロ・・・いずれも、近年ずっと世間を騒がせつづけている問題だが、そこに常にいるのは「弱者」だ。
 著者は全48章を通じて、弱者と強者との間にある見えない壁にどんどん色を塗りたくり、痛快な言説をもってその存在を露わにしていく。

 かといって、本書は単純に「弱者の視点」を描いているわけではない。
 さらに突っ込んで、「強い者に挑戦していく弱い者の姿」を様々な場面から切り取っている点がとても面白い。

 なかでも印象的なのは、「壁にひとりでぶつかってみ」た一人の若者のエピソードだ。
 これは、「微妙に引きこもり状態」の男性が、特別な政治信条を持っているというわけでもないまま、丸腰で選挙事務所に行ってみたというものだ。
 その様子は以下の動画で見られるのだが、著者はこの動画を観ながら、涙がこぼれそうになったと語る。

「衆議院選挙東京第25区の候補者に会って質問できるか やってみた」


 著者は、この動画には「どんなマスコミも伝えられなかった、貴重ななにかが含まれている」と書くが、確かにこれには、マスコミでは伝えきれない「非常に小さい者の視点」が詰まっている。
 そして、多くの市民が当てはまる「非常に小さくか弱き者」が大きく強い者に触れようとすると、どんなことが起こるかを如実に物語っている。
 本書の帯には大きく「日本人に民主主義はムリなのか?」と書かれているが、この動画は、そんな不安の一端を表す貴重なものであろう。

 もうひとつ心に響いたエピソードは、台湾で起きた「学生による議会占拠」にまつわるものだ。
 これは、中国と台湾の間で交わされたサービス貿易協定に反対する学生たちが、台湾の立法院を占拠した事件だが、占拠が20日を過ぎたころ、立法院長から妥協案が提示されたという。

 それはなかなか魅力的な内容で、学生たちの間に戸惑いが起きるが、その時に学生側リーダーがとった行動が素晴らしい。
 何と丸1日かけて、占拠した学生たち1人ひとりに、意見を訊いて回ったのである。

 そうすることで、「自分の意見を聞いてもらえた」と感じた学生たちは妥協案を受け入れ、感謝の言葉を述べて静かに立法院を去ったという。

 この出来事からは、「民主主義=多数決」ではないことがよくわかる。 

学生たちがわたしたちに教えてくれたのは、「民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも、『ありがとう』ということのできるシステム」だという考え方だった。

 「多数派=民主主義」ではない。また「多数派=常識」でもない。
 「小さな意見をきちんと汲んでもらえるか」。そこに民主主義の本質があるということを、この事件は伝えてくれているのだ。

 私たちは、強い者たちが作った常識のなかでしか生きられないのかもしれない。しかし、何となれば大きな山を動かすこともできるし、弱い者・強い者ともに成長することもできる。そんな勇気が出てくる一冊だった。

 そして、もしそれが踏みつぶされようとしたら、こう叫べばいい。 

「ぼくらの民主主義なんだぜ」



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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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