ジャイロスコープ 伊坂幸太郎

 「あのね、どんなことも、思っているほどは悪くないんだってよ」
(本文引用)
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 書き下ろし1編を含む、文庫オリジナル短編集。
 冒頭で、「ジャイロスコープ=軸を同じにしながら各々が驚きと意外性に満ちた個性豊かな短編小説集」と説明されているが、まさにその通り。
 どの物語も、「まさかこうなるとは思わなかった!」「なるほど、ここにつながっていくのねぇ~」という「驚きと意外性」に満ちており、非常に楽しめた。

 これらの物語の軸は、「人間万事塞翁が馬」「禍福は糾える縄の如し」といったところか。
 とんでもないミスが誰かの命を救ったり、心温まる出来事が大きな不幸をはらんでいたり・・・楽しみながらも、「人生の素晴らしさや人生の皮肉」について深く考えさせられる作品だった。

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 本書に収められている物語は7編。人生泣いたり笑ったりの物語群のなかで、特に印象的なのは「一人では無理がある」だ。

 「一人では無理がある」の主人公は、松田陽一。彼はサンタクロース事業を行う組織で働いているが、何と言ってもミスが多い。
 昨年は、男の子へのクリスマスプレゼントに鉄の板を配ってしまった。それは上司の「プレゼントには鉄板を用意しろ」(=「今、大人気のオモチャで、子どもが確実に喜ぶものを用意しろ」)という言葉をそのまま受け取り、本当に鉄の板を枕元に置いてしまったのだ。
 そして今年も、うっかりプレゼントチェックを怠り、なぜかプラスドライバーを子どもに配ってしまう。

 そんなミスを連発する松田だが、不思議と社内での評価は低くない。
 それは松田が「結果オーライの申し子」だから。さて、松田のミスでへんてこりんなプレゼントをもらった子どもたちの運命は・・・?
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 その他、第一話の「浜田青年ホントスカ」も面白い。この作品は「晴れた日は謎を追って がまくら市事件」 (創元推理文庫)にも収められているため、読まれた方も多いと思うが、この「ジャイロスコープ」のなかで読むとまた一味違う。
 世の中で起こることは全て、ちょっと視点をずらすと、全く違う風景が見えてくるということが強烈にわかる。

 最終話の書き下ろし「後ろの声がうるさい」は、著者曰く「受け皿みたいなもの」とのこと。この物語のもとに、前6話がオールスターのように集まっている。これらの天使も悪魔も存在する魑魅魍魎をどうまとめるのか!?と冷や冷やドキドキしたが、後味よく締めくくられているのは、さすがだ。

 最後に、巻末のインタビューで、著者が映画「スライディング・ドア」に触れているのが個人的にうれしかった。
 地下鉄に駆け込み乗車をしようとしたグウィネス・パルトロウが、電車に乗れるのか乗れないのかで運命が二つに分かれる物語だが、これがもう実に良くできていて、シビれるほど面白い。
 「ジャイロスコープ」の「if」を読みながら、ぜひこちらの映画も鑑賞していただきたい。



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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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