アリスのままで STILL ALICE  リサ・ジェノヴァ

 「今日のことを忘れても、それは今日が意味のない日だったということにはなりません」
(本文引用)
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 今年初め、全米で公開された映画「STILL ALICE」
 主演のジュリアン・ムーアがアカデミー主演女優賞を獲得するなど、各界で絶賛されたらしい。そして今月27日より、日本でもいよいよ全国公開される。(映画の公式サイトはこちら

 本書「アリスのままで」は、その原作。若年性アルツハイマーになった女性と家族の闘いを、絶望と希望の両面から緻密に描いた力作だ。
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 ハーバード大学教授アリス・ハウランドは、妙に物覚えが悪くなった自分に気づく。
 常に物を探し、講義で言葉が出なくなり、予定をすっぽかす。頭の働きも悪くなり、本を読んでもなかなか内容が理解できない。

 そしてパーティーに出れば、ついさっき紹介された女性に対して「あなたは誰?」と尋ね、場を沈黙させる。ジョギングに行けば、家に帰れなくなる。

 50歳という年齢から更年期障害を疑ったが、どうもそうでもないらしい。
 明らかな異変を感じたアリスは、病院で診察を受け、こう宣告される。 

「あなたは若年性アルツハイマー病です」

 しかもそれは、強力な遺伝子の連鎖によるもので、3人の子どもたちにも50%の確率で遺伝しているという。
 その遺伝子を保有していれば、発症率は100%という若年性アルツハイマー。アリスは夫と共に、自分の残された日々と、子どもたちの人生に向き合っていく。
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 「訳者あとがき」によると、著者リサ・ジェノヴァ氏はハーバード大学大学院で神経科学の博士号を取得している専門家で、全国アルツハイマー協会のウェブサイトでコラムを書いていたこともあったという。
 それだけに、むやみに感傷的になることなく、若年性アルツハイマー患者を取り囲む環境について、実に冷静かつ現実的に書かれている。

 読んでまず驚いたのは、家族の理解が想像以上に、なかなか進まないという点だ。
 見た目は若くて元気なのに、会話が成立しなくなり、約束事もままならず、一時も目が離せない。
 相思相愛で一緒になった家族なのに、相手は自分のことも、自分を愛してくれたことも全て、手から砂がこぼれるように忘れてしまう。それは想像するのが非常に難しい事態だ。
 アリスが夫ジョンに病気を打ち明けた時、ジョンが必死にそれを否定しようとする場面は、残酷だが現実なのだろう。

 それは、3人の子どもたちも同様だ。
 大好きなお母さんが、自分たちのことを確実に忘れていく。自分たちのことを心から愛してくれたお母さんが、愛してくれたということさえも忘れていく。そして自分もいつかきっと・・・。
 子どもたちはその事実を真正面で受けとめながら、母親を支えるべく意見を闘わせる。

 その経緯は、「介護」というものが避けられない現代において耳を傾ける価値がある。
 若年性アルツハイマー云々を問わず、「一人で生活できない家族を支える」可能性が少しでもある人は、読んで得るところは大きいだろう。

 こう書くと、この物語からは「絶望」しか見えないかもしれない。しかし、読後感は希望に満ちたものになるはずだ。
 アリスは、アルツハイマー協会主催の認知症介護会議で演説をする。それは、他の何を忘れてもいいから、家族だけは忘れたくないという悲鳴にも似た叫びで始まるものだが、アルツハイマー病患者に大きな力を与えるものだった。 

「頭はもう活発に働きませんが、認知症の人々の話に無条件に耳を傾けられますし、泣くときは肩を貸せますし、抱きしめるために両腕を使えます」

 

「わたしは死にかけている者ではありません。アルツハイマー病と共に生きている者なのです」


 たとえどんなに絶望しても、愛と勇気と知恵があれば、希望が失われることはない。愛と勇気と知恵を振り絞って、誰かと共に過ごした時間は、何にも奪われることはない。
 そんなの夢物語かもしれないが、私は、このアリスの主張を全面的に信じたい。

 人生に真っ暗闇などない。必ず自分で光を照らせるはず。そんなことを教えてくれる一冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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