若冲 澤田瞳子

 「若冲はんの絵は、わしら生きてる人の心と同じなんやないやろか」
(本文引用)
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 「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」

 ノンフィクションでこれが揃っていると、心から「読んでよかった」と思える。
 しかしこの本を読み、小説でもこの要素が重要であることがわかった。

 江戸時代の天才画人・伊藤若冲の人生を描いた物語「若冲」
 歴史と芸術が交差する内容と重厚な表紙が、小難しい印象を与えるが、文体が柔らかくシンプルで驚くほど読みやすい。
 さらに、人の心の機微が非常に深く掘り下げられており、そのストーリー展開もなかなかエキサイティングでぐいぐい読ませる。


 本書を読み、「易しく、深く、面白く」がそろっていると、フィクション・ノンフィクション問わずこれほど豊潤な読書ができるのかと、認識を新たにした。間違いなく傑作だ。
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 主人公・伊藤若冲は、京の大店に生まれた。しかし商売には全く精を出さず、仕事はもっぱら兄たちに任せ、自身は絵ばかり描いている。
 その絵は、他の追随を許さないような緻密さと奇矯さを持ったもので、京の人々を惹きつける。しかしその絵には、人々には計り知れない、若冲の悲しみが込められていた。

 若冲には、自死した妻がいたのである。
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 本書は、8編の物語から成る連作短編。各編にゲストの登場人物が現れ、一波乱起きる構成となっている。
 それら全編を通して、絵師・若冲の生涯や心の動きがわかるようになっているのだが、その「心の変遷」が何とも胸に迫る。
 なかでも、自死した妻の弟・弁蔵との心の交錯がたまらない。

 弁蔵は、姉の死は、若冲の家の者たちのいじめが原因とし、若冲を激しく恨みつづける。
 一方の若冲は、その事実を受けとめながら、日々絵を描くことに専心する。
 そんな、ぶつかり合うような行き違うような二人の心が、「絵」を通じて通っていくのだが、その展開にはもう涙、涙。

 なかでも終盤の、一枚の絵の真贋を見極める場面がいい。
 「人の真実」というものは、物の真贋では決められない。「その人の真実」というものは、他の人には決められない。そんな、人間の真理、芸術の神髄といったものが、本書にはあふれている。改めて、人間とは、芸術とは何と美しいものかと心が震えた。

 平易な筆致で、人の心の奥深さを、目の離せないストーリー展開で見事に描き上げた小説「若冲」。
 見かけのイメージよりもはるかに読みやすいので、書店で見つけたら、ぜひ手に取ってみてほしい。その瞬間から、至福の読書時間が約束されるだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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