町工場の娘 諏訪貴子

大事なのは、どんな場においても、悔いのないよう「小さな勇気」を持って行動することだ。
(本文引用)
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 改革、チェンジ、イノベーション・・・いずれも言うは簡単だが、行うは難し、であろう。
 余程の不満があるならいざ知らず、たいていの人は、現状を変えることなく平穏に暮らしたいと思っているもの。そこにメスを入れるのは、並大抵の覚悟ではできまい。
 
 しかしそれを、誠意をもって果敢にやってのけた人がいる。
 ダイヤ精機社長・諏訪貴子氏だ。
 「ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2013」を獲得し、「町工場の星」といわれる諏訪社長は、経営危機に陥っていた町工場をいかにして再生させたのか。
 本書は、期せずして社長になった人物の格闘の記録である。
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 著者・諏訪貴子氏の名前の由来は「お兄ちゃんの命を引き継いだ貴い子供」という意味だと言う。
 実は諏訪氏には、幼くして病死した兄がいた。ダイヤ精機創業者である父親は、後に生まれた女の子、貴子に事業を継がせるべく、男の子として貴子を育てる。

 しかし、「その日」は思いもよらず早くやってくる。

 主婦として家事と育児に専念していた貴子のもとに、父親が倒れたとの知らせが入る。医師から告げられた言葉は「余命4日」。
 貴子は、父親に最後まで生きる希望をもたせたまま、必死で事業承継の準備を進める。
 かくして、32歳の女性社長・諏訪貴子率いる“新生ダイヤ精機”がスタートを切る。
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 本書には、経営危機に瀕したダイヤ精機を立て直した諏訪社長の奮闘ぶりが書かれているのだが、単なる根性論やサクセスストーリーと思ったら大間違い。
 コストカットから品質管理、人材育成等さまざまな取り組みが、驚くほど具体的かつ詳細に書かれており、そのままビジネスの教科書になりそうだ(いや、なっている)。

 経営者・諏訪貴子の信条は、 

「物事には原理に基づいた原則があり、そして基本がある。基本があるからこそ応用ができる」

 というものだ。
 カリスマ的なリーダーシップで社員を率いてきた創業者とは違い、2代目は何かと逆風が強い。特に若い女性となれば、その風の強さは半端ではない。
 そこを、合理性をモットーとすることで風向きを変えていったのが諏訪イズム。
 長年の習慣や前例に固執しがちな社員に、明確な理論をもって根気よく向き合うことで、見事に「旧」と「新」を融合させていく。

 たとえば、作業場上の不満をどんな小さなものでも吐き出させ、きめ細かく対応することで作業を効率化させた「悪口会議」。熟練社員独自の感覚を頼りにしてきた研磨を、数値制御にすることで多能工化をはかったNC研磨機の導入。それに伴う、新人教育の変更・・・。
 どれもこれも、長年ダイヤ精機に勤めてきた社員からすれば抵抗のあるものだが、諏訪社長は地道に新体制を確立。徐々にダイヤ精機は、見事に息を吹き返していくのである。

 しかしここで諏訪社長がすごいのは、何でもかんでも新しくしたわけではない点、譲れないものは決して譲らなかった点だ。
 ゲージ事業の存続が、その最たるもの。難度もリスクも高いゲージ作りは、採算的には割に合わない事業だが、諏訪社長は敢えてゲージ事業を残した。 

「他の町工場にはできない精密なものづくり」に誇りをもっていた父の思いを引き継ぎたかった。

 新風を吹き込みながらも、会社の根っことなるもの、誇りとなるものはしっかりと残す。その地に足のついた判断力、堅実さ、そして熱いハートが、古参社員の心もガッチリとつかんだのではないか。そう思えて仕方がない。

 ちなみに諏訪氏は、就任当初ケンカし合った幹部に「俺たち、社長に一生ついていきますよ」と言われ、社員旅行の旅館で枕を抱きしめながら泣いたという。このエピソードには、私も思わず泣いてしまった。

 成功した女社長の華やかな物語とは思わず、着実に仕事を積み上げてきた、辛抱強く真面目で勇気ある一個人の軌跡として、ぜひ読んでみてほしい。
 特に、今後の仕事や人間関係に不安を感じている人には、大いに助けになるに違いない。
 読んだ後はきっと、足取り軽く未来に歩を進めていけるはずだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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