田園発 港行き自転車  宮本輝

 ――好不調はつねに繰り返しつづけるし、浮き沈みはつきものだが、自分のやるべきことを放棄しなければ、思いもよらなかった大きな褒美が突然やって来る――
(本文引用)
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 宮本輝の小説は、上下巻であることが多い。そして私は必ず、その上下巻を迷わず一気に買う。
 なぜなら、宮本輝の小説なら上下巻飽きずに読めることがわかっているから。そして、宮本輝の小説は、むしろ長くなくてはならないと思っているからだ。

 それは、宮本輝の小説には、いつもこんなメッセージが込められているせいだろう。

 「努力は人を裏切らない」
 「私が裁くのではない、天が裁くのだ」

 努力が報われるのも、人でなく天が裁くのも、非常に時間がかかる。
 しかしそれだけ、得られるものは大きい。慌てて解決したものは、誰の心にも不満が残り、すぐに綻びが生じる。しかし、慌てず騒がず腐ることなく、じっくりと時間をかけて解決したものは、誰の心にもわだかまりを残さず、皆が幸せな日々を送ることができる。

 宮本作品は、それを全身全霊で教えてくれる。だから、「長さ」こそ宮本作品の大いなる魅力なのだ。
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 この小説には、実に様々な人物が登場する。
 上京して就職したものの、都会になじめないまま郷里に帰っていった千春。
 上司として千春を見守りながらも、娘の不倫騒動に頭を抱える川辺。その川辺の旧友であるバーの経営者・日吉。



 有名自転車メーカー経営者の令嬢で、絵本作家として活躍する真帆。真帆を担当する女性編集者多美子。その女性編集者の恋人であり、京都花街の人気者である茂生。
 誰からも可愛がられる中学生・佑樹。佑樹の人生を輝かしいものにしようと奔走する夫婦、仲がこじれてしまった嫁姑・・・。
 他にも伝説の芸妓や、誰もが頼りにする大番頭等々、数えきれないほど多くの人物が登場。しかもその誰もが、物語の鍵を握っている。

 中心となる物語は、15年前、真帆の父親・直樹が、ある駅の構内で急死したことに端を発する。
 直樹の死には、真帆にとって衝撃的な事実が隠されていたのだが、登場人物たちはその秘密を墓場まで持っていくつもりで平静を装う。
 しかし、真帆が絵本作家として活躍するなかで、思わぬ運命の歯車が回り出す・・・。
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 上下巻約800頁、その間、歯車は絶え間なく回りつづけるのだが、その歯と歯が合うか合わぬかの瞬間にキラリと光る「心の機微」が、何とも泣ける。
 宮本作品から得られるものとして、「人を信じられるようになる」というのが挙げられると思うが、この作品も同様。
 皆が皆、互いの思いを守り合い、信じ愛することで、こんなに誰もが幸せになれるのか、と目の覚める思いがする。
 そして、どんな怨みつらみがあっても人はここまで前に進むことができるのか、と、強かに頬を打たれたような気がする。

 数々の艱難辛苦から幾星霜を経て、辛抱強く幸福をつかんでいく彼らの姿は、バーのマスター日吉のつぶやきが象徴している。 

「うん、俺は、そんな人間の力を信じられるよ」


 何かに行き詰まり、それを「結果を急ぐが故」と感じている人には、ぜひ読んでほしい小説。
 人として正しければ、ゆっくりでも確実に道は開ける――心からそう信じることができ、自身をスクッと立て直すことができるだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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