透明カメレオン 道尾秀介

たとえ目に見えない透明な世界だったとしても、本気で願えば、人はそれに触れることができる。
(本文引用)
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 道尾秀介の小説を読むには、覚悟がいる。なぜなら、最初から最後まで1ページたりとも気が抜けないからだ。
 物語終盤になって、序盤にチラッと登場した些細(に思えた)な出来事がポイントになってくる。ここで「そんなのあったっけ?」と思うか、「あー、あれってそういうことだったのか」と思うかで、俄然面白味が変わってくる。
 なので道尾作品を読む時は、一語一句目を離さず読むことが重要である。と言いつつ、いつも一本とられてしまうわけだが。

 そしてこの度の「透明カメレオン」は、まさにそんな道尾マジックの集大成。
 小説という「嘘の世界」の力をフルに生かして、いつも読者を驚かせてくれる道尾秀介。そんな著者が、「嘘」について書いたらどうなるか。
 突拍子もない「嘘」を心から信じた時、人の「真実」が見えてくる。


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 主人公・桐畑恭太郎は、人を魅了する声を活かし、ラジオのパーソナリティーを務めている。
 しかし実際の恭太郎は、声のイメージとはほど遠い冴えない風貌。声を出せば誰もが振り向くが、振り向いた瞬間、相手が落胆してしまうという光景は、日常茶飯事だ。

 ある日、恭太郎が行きつけのバーで飲んでいると、一人の女性が現われる。
 桐畑恭太郎のファンだという彼女の夢を壊さないために、恭太郎はハンサムな友人と二人羽織状態となり、話をするのだが・・・?
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 この物語は後に、ある殺害計画へと話がもつれこんでいくのだが、徹頭徹尾貫かれているのは「優しい嘘」、「夢を壊さない嘘」。そう、まるでサンタクロースの存在のような。
 前述の二人羽織に始まり、小さなものから大きなものまで、誰かを喜ばせたり守ったりする「嘘」で固められている。

 そんな「嘘」だらけの本書のなかで、私がいちばん好きな「嘘」は、タイトルにある「透明カメレオン」の話だ。
 どうでもいい嘘をつく子というのが、小学校に一人はいる。そんな少年が、昔、恭太郎に「カメレオンを飼っている」と言う。家に行っても、当然カメレオンなどいない。
 しかし、少年と恭太郎には見えたのだ。背景とまるっきり同じ色になっている、どこにいるかわからないカメレオンが。

 ここで、少年をうそつき呼ばわりするのは簡単なことだろう。しかし、その「嘘」を敢えて信じるのと、「嘘つき」と拒絶するのとでは、どちらが多くのものを得るだろうか。
 「嘘」を信じてみることで初めて、生身の人間同士のつきあいができる。見えなかった真実が、見えてくる。その不可思議さ、面白さを、このエピソードは如実に表している。

 本書には、大なり小なり多数の嘘が組み込まれているが、「騙されまい」と身構えるのは、ちょっと無粋かもしれない。まずは猜疑心を取っ払い、素直に文字を追ってみていただきたい。
 最後には、「騙される」ことに対し、腹が立たなくなっている自分に気がつくことだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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