海を照らす光   M・L・ステッドマン

「人生はとてつもなく厳しくなるときがあるんだよ、イザベル。ときには、おまえさんを食いちぎるぐらい過酷になる。そしてときには、これで最悪のことが終わったと思っても、またやって来て深く食いちぎる」
(本文引用)
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 この作品、すでに映画の撮影が進んでおり来年にも公開予定とのことだが、それも納得。
 美しい景色、人の心の機微、終始まとわりつくサスペンス性・・・「知る人ぞ知る面白い映画」の条件を、全て備えているといっても過言ではない。そんな物語だからだ。
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 主人公トムは、第一次世界大戦で英雄として戦ったが、多くの人を殺してしまったことに悩み苦しんでいる。

 そんななか、灯台守の仕事の話が舞い込む。真面目な人間性と、孤独に耐えられる精神力が要される難しい仕事だが、人の役に立ちたいと考えていたトムは、進んでその仕事を引き受ける。
 トムは帰省中に良家の子女イザベルと知り合い、結婚。共に灯台で暮らすが、そこで夫婦は度重なる流産と死産という悲しみを味わう。


 ところがある日、思わぬことで夫婦は子どもを得る。それは島に流れついた一艘のボート。ボートには何と、すでに事切れた男性と、衰弱しつつも生きている小さな赤ん坊が乗っていた。

 絶望に打ちひしがれていたイザベルは、赤ん坊をルーシーと名づけ、大喜びで子育てに勤しむ。
 しかしある日、トムは知ってしまう。ボートで出て行った夫と、生まれたばかりの子どもを必死で捜している女性がいることを。
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 絶海の孤島が舞台だから、というわけではないが、久しぶりに「物語という名の大海」に溺れるように読んだ。

 頑としてルーシーを手放そうとしないイザベル、本当の母親のもとに返すべきだと考えるトム、夫婦のもとを訪ねるうちに、徐々に真実を知りはじめる周囲の者たち、そして夫と子どもを捜しつづける女性・・・。

 そんな彼らの心は、まさしく海そのもの。
 日頃は穏やかな笑みをたたえ、人を包み込む優しさもあるが、現状を壊される恐怖に出遭った途端に正体をなくし暴れ出す。
 ルーシーを中心に、真実と嘘、正気と狂気の間を荒波のごとく激しく行き来する彼らの姿に、私はすっかり飲み込まれてしまった。

 しかし、それと共に、海よりも深い「人の愛」にも気づかせてくれるのが、この小説の素晴らしさ。
 終盤、トムは人生最大の危機を迎えるが、周囲の助けにより真の幸せをつかんでいく。その展開は、読んでいて実に清々しい。
 ここでようやく、「海を照らす光」というタイトルの意味がわかってくる。各々が自分自身ばかりを照らしていても、何も解決はしない。幸せを得ようと難破する船を助けられるのは、自分ではなく他人の幸せを願う心、自分ではなく海を照らす光しかないのだ。

 450頁超という長編だが、無駄な場面があまりなく、登場人物の相関関係もシンプルなので読みやすい。
 ぜひスクリーンで映し出される情景を思い浮かべながら、人の心の海に身を委ねて読んでみてほしい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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