犯罪被害者 ~いま人権を考える~  河原理子

 以前に自分を「壊れた人形」に喩えていた彼女は、このとき、自分が「継ぎはぎだらけの人形」のように思える、と表現している。「一度は壊れてしまった私を、一生懸命、自分が選んだ端布で、自分の力で、指に針を刺しながら繕っている」世界でただひとつしかない人形だ、と。(本文引用)
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 「女だから」「もう死んだ人だから」「事件に巻きこまれた人だから」――それだけで、これほどまでに蔑まれ、尊厳を踏みにじられて良いのか。唇をかみしめ、怒りと悲しみで体中を震わせながらページを繰った。

 本書は、朝日新聞で連載された「犯罪被害者」シリーズや、その関連記事の取材、記者の所感等がまとめられたものだ。
 その、被害者本人および家族の心に徹底的に寄り添った内容は、「事件に巻きこまれた経験のない人々」や「事件を起こした人々」の「思い込み」をそっくり覆すものだ。そしてその「思い込み」が、犯罪被害者をどれほど傷つけ苦しめるかが、本書を読むとよくわかる。
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 この取材は、「性暴力を考える」ことから始まる。
 小学生の娘が性的被害を受け、警察に訴えたものの加害者ばかりが保護され、転居を余儀なくされた家族、幼少時の性暴力により自分を汚いものと思いつづけ、その後の人間関係に支障を来たす女性・・・。
 性的被害に遭った女性たちは、いずれもその耐えがたい屈辱から「私は人間の形をした、ただのモノなんじゃないか」と悩み苦しみつづける。

 さらに彼女たちを傷つけるのが、世間の偏見や法の壁だ。
 たとえば成人同士の強姦事件の場合、加害者側の弁護士が被害者の過去の男性遍歴等を採りあげ、「ふしだらな女」という印象を植えつけることがある。これが被害者を二重にも三重にも苦しめる。
 このような状況のなか、本書で紹介されている諸澤英道・常磐大学学長の言葉が胸に響く。 

「日本では『清く正しく生きていれば犯罪にあうはずがない』という神話が、被害者を孤立させ苦しめてきた。だが、それは間違いだ。被害者を正しく理解し、人としての尊厳をもって接することが、根底になければならない」

 この「『清く正しく生きていれば犯罪にあうはずがない』という神話」という言葉には、私自身ドキリとした。というのも、性犯罪に限らず残虐な事件が報道されるたびに、私はつい「被害者の落ち度」を探してしまうからだ。

 「そんな夜遅くに帰るから・・・」「そんな不良グループと付き合うから・・・」「そんな借金を抱えるから・・・」

 しかしよく考えれば、私は被害者の実像を知っているわけでは全くない。そしてたとえ落ち度があったとしても、そのような理不尽な犯罪に巻きこまれてよいはずがない。
 「被害者の落ち度」を探そうとしていたのは、ただ「自分は安心だ」と自分に思いこませたいだけ。その身勝手な気持ちが、世の中で日々苦しんでいる人を、さらに追い詰めているとは夢にも思わなかった。本書を読んだ収穫として、それに気づいたことが、まず挙げられる。

 また、被害者がぶつかる「法の壁」も深刻だ。
 刑法では、強姦であると認める条件として「加害者による暴行・脅迫」が挙げられている。しかしこの暴行・脅迫のハードルが非常に高い。死を持って抵抗するぐらいでないと、「暴行・脅迫」とは認められないレベルなのだ。
 勤務先の店長に強姦された女性は、東京高裁の法廷で叫ぶように、こう言ったという。 

「私は、舌をかんで死ぬことはできませんでした」

 ここまで言わせないと加害者を罰することができないとは・・・。そのあまりに理不尽な状況には、ただただ愕然。それに続き、激しい憤りと悔しさがとめどもなく溢れた。

 本書ではさらに、「なぜそのような理不尽な状況が起きてしまうのか」を徹底的に追究している。
 そのなかで非常に驚いたのが、「性」に対する男女間の認識のギャップだ。
 特に読むべくは、女性として生きることを選んだ男性作家が、女性になった直後、電車内で痴漢にあった話だ。
 この、男だった頃には到底想像できなかった「恐怖心」の吐露は非常に貴重なもので、このエピソードだけでも本書を読む価値はある。
 他のアンケート結果でも、女性が目を剥くような意見が男性側から飛び出しており、これほど「性暴力」に対する認識が男女間で違うことには心底驚愕した。
 
 この本はぜひ、男女双方がそろう場所で共に読んでほしい。本書を通して、性に対する考え方や、日頃から抱えている恐怖、暴力に遭った際にどのような抵抗ができるか等を話し合うことで、互いを「世の中に1人しかいない、誰にも侵されても脅かされてもならない、尊厳ある人間」として見る目が養われることだろう。

 本書には他に、交通事故や地下鉄サリン事件等の被害者についても詳しく書かれている。
 そこで明かされる、「被害者・遺族に対する世間の思い込み・予想」と「被害者・遺族が実際に感じている現実」との乖離には、誰もが目をみはるに違いない。
 しかし、その乖離を認めないかぎり、犯罪被害者が救われることは永遠にない。そして、その乖離を認識することが、犯罪被害者を救う大きな一歩になる。
 このような本が読まれることで、少しでも犯罪被害に遭われた方々の心が軽くなることを切に願う。

 最後に、イギリスの被害者憲章の前文を用いた、著者の言葉を書いておきたい。 

私たちの社会も、「犯罪の後の手続きが、犯罪により被った傷をより悪くさせることがないようにすることを」最低限、目指すべきではないだろうか。


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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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