天災から日本史を読みなおす ~先人に学ぶ防災~ 磯田道史

 あの災害を生きのびた人は、一方的に助けられる被災者などではなく、むしろ、これから災害に直面する人を助ける重要な語り部であることを再認識させられた。(本文引用)
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 まず、一言、伝えておきたい。

 「磯田道史さん、このような本を出してくれてありがとうございます。本当に、本当に勉強になりました!」

 ・・・東日本大震災をはじめ広島での土砂災害等 自然の強大さを思い知らされる出来事が、毎年のように日本を襲う。いつ誰が被災して、命の危険にさらされてもおかしくはない。
 そんな時代のなかで、この本の果たす役割は計り知れないであろう。
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 本書は、タイトル通り、天災から日本の歴史を読みなおすものである。


 たとえば、豊臣秀吉と徳川家康の戦いの裏に、地震があったことをご存知であろうか。本書によると、大地震がなかったら、徳川家康は豊臣秀吉の軍に滅亡させられていたかもしれないという。
 他にも、地震で愛娘を失った山内一豊が震災遺児の支援に乗り出したことから土佐で学問が発達したこと、武田信玄の娘・菊姫が、驚くべき怪力で女中らを助けたこと、崩れた伏見城を秀吉が贅沢仕様で再建しようとしたために、人心が離れたこと等々・・・。
 まさに「歴史の陰に天災あり」。さすが歴史界屈指のストーリーテラー・磯田道史氏の著書だけあり、どのエピソードも誰かに話したくなる面白さだ。

 しかし、この本の素晴らしさは、過去に留まらない点にある。「無私の日本人」等でもわかるように、磯田作品は常に過去から未来を引き出していくが、本書も例外ではない。
 先人たちの悲劇や奇跡の救出劇から、災害時の対策を具体的かつ実務的に教えてくれている。

 たとえば本書では、地震および津波の犠牲にならない方法が繰り返し書かれている。
 そこで重要なのは、マニュアルや常識、慣習に決してとらわれないことだ。
 近いところでは、迫りくる大津波のなか児童全員が無事だった大船渡小学校校長の機転が挙げられているが、歴史を紐解いていくと、その「機転」や「心構え」ひとつで生死が分かれる事例が数多くあり、慄く。
 
 なかでも印象的なのは、二人の儒者――藤田東湖と猪飼貞吉の例である。
 お上への忠義と親への孝行から、尊い命を失った藤田東湖。有事の際の対応を、事前に夫婦で十分に話し合っていたおかげで家族全員が助かった猪飼家。その対照的な行動記録は、災害時の教訓となって今も生き続ける。

 老いた親を死なせるわけにはいかない、親の言うことは絶対に聞かなくてはならない、武士は刀を常に持っていなければならない――そんな、時代の常識や慣習にとらわれた心は、ついに津波にもとらわれ、家族全員が絶命してしまう。
 本書には、そのような凝り固まった思考のために失命した例がいくつも登場するのだが、そこから磯田氏は、この鉄則を提唱する。 

第一、事前に家族で地震時にどうするか話し合っているかで生死が分かれる。第二、一度逃げたら、忘れ物を取りに家に戻ってはならない。

 そして、逃げる時は恥ずかしくても大声で、「高い所へ逃げよう!」などと叫ぶ。
 磯田氏は、災害のあった現場に自ら足を運び、緻密な取材・調査・分析を重ね、そのような結論を出していく。

 これは一見、単純なことのように思えるかもしれない。しかし、いざパニック状態になった時に、この言葉は大きな効果を発揮するだろう。
 自分の命を守るために、何を優先させるか、何ができるか、何を捨てるべきか。その判断を迫られた時に、この言葉を思い出すだけでも、ずいぶんと結果は違ってくるに違いない。

 ちなみに、磯田氏がこれほどまでに災害研究に勤しむ理由は、氏の母親自身が津波の被害に遭っているからだという。
 当時まだ2歳で、その場を生き長らえたからこそ磯田氏がいるわけだが、その克明な記録には目を剥いた。
 
 そこから磯田氏は、幼い子どもがいる家庭の災害対策についても、並々ならぬ情熱をもって研究を進めていく。
 その調査・分析はもはや、歴史学者という枠をはるかに越えている。地質学か地震学、津波工学の研究者と言ってもおかしくない内容だ。

 東日本大震災で小学生の子どもを亡くした男性が、磯田氏にこう語ったという。 

「歴史を知るのが何より大切です」

 私もこの本で、「歴史を知ること」が、生きるうえでいかに大切かを痛感した。
 もうすぐ震災から4年。今いちど、歴史から災害対策を見直していきたい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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