休戦 プリーモ・レーヴィ

 破壊されたウィーン、屈服させられたドイツ人を見ても、いかなる喜びも感じられなかった。むしろ苦痛を感じた。それは同情ではなく、ずっと広範な苦痛の念で、私たちのみじめさと混じり合っていたが、さらに、取り返しがつかない決定的な悪が存在するという、のしかかるような重苦しい感覚とも混じり合っていた。(本文引用)
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 以前ご紹介した「13歳からのテロ問題」で、非常に印象に残った言葉がある。それは「テロこそ心理的暴力の典型」というものだ。
 テロという言葉は、フランス革命時のジャコバン派による恐怖政治に由来する。よって、もともとは国家による弾圧を表す言葉であり、ナチスによるユダヤ人虐殺もテロ行為といえる。
 そして、本書を読めば、まさに「テロは心理的暴力である」ということがよくわかる。

 アウシュヴィッツで尊厳を破壊された人間が、正常な生活に戻れるのか――強制収容所で地獄を見た著者が、故郷に帰るまでの旅路を描きながら、その心の再生をつづる。

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 著者であり、かつ本書の主人公でもあるプリーモ・レーヴィは、イタリア系ユダヤ人としてアウシュヴィッツに送られる。
 彼は「アルバイト・マハト・フライ」(労働が自由をもたらす)という言葉が掲げられた門のなかで過酷な強制労働をさせられるが、終戦直前に病にかかり、伝染病患者の病棟に入れられる。

 その間、ロシアの侵攻をかぎ取ったドイツ軍は、病人らを放置したまま収容所から撤退。
 直後、レーヴィは運よくロシア軍に救出される。9割以上の仲間が死んだなかでの、奇跡の生還であった。

 しかし、その後も地獄は続く。瀕死の状態で運ばれた者や幼い子どもは死に、戻ってきた世界も、期待していたほど希望に満ちたものではなかった。
 ただただ「完璧な世界」を夢見ながら生きてきたレーヴィにとって、なお憎しみ合う人間たちの姿や、新たな戦争に怯えるヨーロッパの街は、強い虚無感をもたらすものであった。
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 これは、ポーランドから故郷イタリア・トリーノに帰るまでの長い冒険譚だが、随所に、強制収容所で受けた心理的暴力の爪痕が感じられ胸が疼く。
 外側から締め切られた長い貨物列車にフラッシュバックを起こし、ミュンヘンでドイツ人に対する怒りを胸中に膨らませ、腕に入れられた囚人番号を熱くたぎらせる。
 それらの描写から、収容所で受けた恥辱と決定的な絶望感が、いかに根深いものかが伝わってくる。体に受けた傷は治っても、心に受けた暴力・冒瀆は永遠に治らない。このレーヴィの手記は、それを残酷なまでに物語っている。

 「13歳からのテロ問題」で加藤教授が語っていたように、「テロの目的が心理的恐怖を与えるもの」であるならば、ナチスは目的を果たしたといえるのだろう。
 では、その目的を果たさせないようにするには、どうすれば良いのか。己の心を、どのように見つめ、対処していけば良いのか。

 レーヴィの心の旅は、そのヒントを与えてくれる。
 人間が争いつづける限り、目を背けず読みついでいきたい名著である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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