中坊公平・私の事件簿 中坊公平

 あなたたちがいかに被害者を抹殺しようとしても、この被害者が叫んでいる声は消せないのです。(本文引用)
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 人は三度殺される。一度目は加害者に、二度目は世間に、そして三度目は自分-自責の念に。
 そのなかで弁護士がすることは、その回数をひとつでも減らすことなのだろう。
 一度目の苦しみを消すことはできない。しかしせめて、二度目、三度目の苦しみからは解き放ってあげたい。そしてできれば、一度目の苦しみを少しでも軽減してあげたい。
 それが弁護士という仕事の使命なのだろう。

 “平成の鬼平”と呼ばれた弁護士・中坊公平。
 自身がつづるこの事件簿は、そんな被害者の苦しみをひとつでも減らすべく命を賭して奔走した、魂の記録である。

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 中坊氏といえば、森永ヒ素ミルク事件や豊田商事事件、住専問題等を担当したことで有名だ。
 本書にはその3件をはじめ大小様々な事件について、発生から解決までの経緯が載せられている。
 その全てに一貫しているのは、中坊氏のこんな姿勢だ。 

共に喜び、共に泣くということでないと、弁護士というものはできないんです。

 そう、被害者と視線を合わせ、哀しみも喜びも共にする姿勢である。
 その揺るがぬ信念で、中坊氏は被害者を“複数回の死”から救っていくのである。

 なかでも目をみはるのが、豊田商事事件における被害者救済である。

 豊田商事事件といえば、40歳以上の方は覚えておられるであろう、日本中を揺るがした「戦後最大の詐欺事件」だ。

 ちなみにこの事件、日本経済新聞によると、被害者は3万人、被害総額は2千億円にものぼったという。さらに社員らは高額の歩合給を受け取り、ゴルフバッグに現金2500万円を入れていたり、宝くじを1億円分も購入したりするなど、家宅捜索した捜査員も驚き呆れたそうである(2015/1/18「事件は問う 戦後70年」より)

 中坊氏は、被害者に1円でも多くお金を返そうと駆け回るが、その徹底ぶりには圧倒される。
 破産した豊田商事には、もはや雀の涙程度しかお金はない。そこで中坊氏は、豊田商事の顧問弁護士に顧問料全額返還を請求。その中には自宅を売却してまで返還した者もいたという。
 さらにすごいのは、国税庁に赴き、豊田商事が収めた所得税を返還するよう請求したというものだ。
 この請求に、国税庁はさすがに渋い顔をしたようだが、最終的に国税庁が折れ、中坊氏の請求は受け容れられる。
 それにはきちんと道理があるわけだが、その情熱にはただただ頭が下がる。

 中坊氏は、香川県で起きた産業廃棄物不法投棄事件において、こんな言葉をつづっている。 

世の中には真実と道理というものがある。そしてそれはいかなる権力よりも強いものだ。それこそが、われわれを守る武器である。

 その武器を片手に、中坊氏は弱い者と共に権力へと立ち向かっていく。その闘いのなかで、被害者らは「世間の目」や「自責の念」という呪縛から徐々に解き放たれ、真に救済されていくのである。

 一度起きてしまった事件は消すことはできず、一度受けた傷を消すこともできない。
 しかし、その傷で苦しんでいる人を、さらに痛めつけるようなことがあってはならない。
 だまされる人間が悪いのではなく、だます人間が悪い。これは絶対なのだ。

 「中坊公平・私の事件簿」。
 この記録は、そんな当たり前のことに気づかせてくれる。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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