鬼はもとより 青山文平

 「軀と服とはぴったりと釣り合っていなければならん」(本文引用)
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 2015年1月13日の日本経済新聞朝刊に、こんな記事が載っていた。

 「エコノ探偵団 贈与増えれば景気よくなる? 子世代消費押し上げに期待」

 これは、今年1月に改正された、相続税及び贈与税の税制について触れたものだ。
 この施策の目的は、ずばり景気の活性化。高齢者から若い世代への資産移転を促すことで、個人消費の増加が期待できるとされている。

 そのせいだろう、最近各種メディアで、孫の教育資金の支援をホクホクと語る高齢者の姿をよく見かける。

 そんな彼らの様子を見るたびに、私は心の中で大泉逸郎の「孫」を唄ってしまうのだが、同時にこうも思う。
 喜ぶのは、一部の富裕層だけなのではないか、教育格差が広がるのではないか、と。

 どうやらそれは、誰しもが思うのだろう。
 この記事でも「貧富の格差の拡大・定着」を指摘しており、また景気刺激策としての有効性についても疑問を投げかけている。
 給与収入が途絶え、介護の支出がのしかかってくるにも関わらず、そう簡単に資産を移すものだろうか。消費をするお金がない人に資産を渡してこそ、消費は拡大するのではないか・・・。
 この記事を読むかぎり、今回の税制改正で景気刺激を呼び起こせるかは未知数であり、まだまだ考慮すべき点が多いようだ。

 では、この男ならば、どんな策を練るであろうか。
 江戸の財政コンサルタント・奥脇抄一郎。
 東北の小藩を立て直す物語「鬼はもとより」の、主人公である。
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 時は江戸中期。隅田川近くで万年青を売る奥脇抄一郎には、実は違う顔があった。彼の本業は、藩札コンサルタント。藩札を流通させることで、藩の財政を立て直す仕事を請け負っている。

 実は抄一郎には、脱藩の過去があった。

 城内藩札掛として勤めていた藩が飢饉に陥り、重臣らは藩札の大量刷り増しを提案する。しかし抄一郎は、それを頑としてはねつける。藩の身の丈に合わない刷り増しは、いずれ経済崩壊を招くと予感したからだ。

 かくして抄一郎は、藩札の原版を手に脱藩。江戸で万年青を売るに至る。
 そんなある日、武士も領民も食うに困っているという最貧藩から、経済立て直しの依頼を受ける――。
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 この小説を読んでいると、「上に立つ者の姿勢」の重要性がよくわかる。技術でも能力でもない、「姿勢」である。

 上に立つ者が、下の者達の生活を隅々まで見つめ、自らの手で実態をつかもうとすること。
 皆が豊かになるために、全人生を賭ける所存であること。

 その「本気の姿勢」を示すことが、領民たちを動かし、結果的に国全体が潤うということを、この物語は示している。

 そしてその逆も然り。上に立つ者の真剣みが足りないと、徐々に人々も甘えを見せ、ゆでガエルのごとく国は滅んでいく。

 その細密かつ戦略的な描写は、もはや時代小説を通り越して立派な政治・経済小説。現代の日本に当てはめて、何度も大きくうなずきながら、大変楽しく読むことができた。直木賞候補に挙げられるのも当然であろう。 

「わが国は、上から下まですべてが貧しい。誰か一人を豊かにしようと思ったら、すべてを豊かにしなければなりません」

 今現在、行われている施策は、この言葉に沿ったものか。「誰か一人を豊かにすること」にかまけて、「すべてを豊かに」の視点が抜け落ちていないか。
 本書と、このたびの税制改正を交互に見ながら、そんなことを考える今日この頃である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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