天涯の花 宮尾登美子

 神さまはいたずら好きで、私にくれた道のなかに、ところどころ分かれ道を作っておいでになるみたいじゃ。どっちでもええほうへ歩いてゆきなさいとじっと天から眺めておいでになるらしい。(本文引用)
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 宮尾登美子さんを偲び、前回は「蔵」について書いたが、この本も紹介したい。
 以前、産前休暇中に読み、「子どもを育てる」ことの重みについて深く考えさせられた作品だ。

 主人公の珠子は、養護施設で暮らしている。赤ん坊の時にお寺に捨てられていたのを、発見されたのである。
 面立ちが良く、賢く優しい珠子は施設でも特に可愛がられ、園長は彼女を養子に迎えることを考えるが、珠子は施設を出ることを希望。山奥に住む宮司の養女となる。
 里から遠く離れた家で、厳しい自然のなか珠子は新しい生活を始めるが、様々なことから守られてきた珠子にとって、それは予想以上に戸惑いの大きいものであった。

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 この小説は一応、両親を知らない少女の物語となっているが、血のつながりの有無を問わず子育て中の人に薦めたい作品である(まだ、子どもが小さい私が言うのも不遜だが)。
 
 自分とは別の人格を持ち、別の考えを持ち、別の希望を持つ一個の人間を育て、社会に出すこと、および子の幸せを心から願うこと。それを程よく行うことがいかに難しいかが、随所随所で伝わってくる。
 親子でも触れてはいけないものがある、縛ってはいけないものがある、侵してはいけない領域がある。それをお互い手探りしながら月日を重ねていく珠子と両親の姿には、思わず手を差し伸べたくなるほどハラハラ。
 親の誘導に従っていた子ども時代から、成長するに従い「反発」「脱却」という言葉が徐々に胸を占めていくわが子。その様子を感じ取った時、果たして親はどうすべきか。この物語は、そんな問題提起を幾度となく読者に突きつける。

 なかでも、「恋愛」面における珠子親子の心の揺れには、息を呑む。
 子どもは子どもで己の中に燃え盛る恋の炎に悩み、親は親で子の将来を見据えつつ恋の炎を調節する。珠子が、そのどちらに身を預けるかは読んでからのお楽しみ。恋愛小説としても、かなりスリリングで十分楽しめる展開となっている。

 あとがきで、宮尾氏はこの小説を「いささかの冒険」と語っている。なぜなら、これまでは全て「出自から死後までの女の一生」を書いてきたにも関わらず、この作品は主人公が20歳の時点で筆を置いているからである。

 でも、この未完結さが本書最大の魅力だ。
 20歳、成人になった珠子が、一人の人間として女性としてこれからどんな道を歩んでいくのか。誰を慕い、何を信じて進んでいくのか。
 その想像を読者に委ねることで、この物語は大輪の花を咲かせる。そんな気がしてならないからだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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