キャプテンサンダーボルト 阿部和重 伊坂幸太郎

 「このまま出口の分からぬ道を歩いていくくらいであるならば、一度引き返すべきではないか」(本文引用)
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「井ノ原、“show must go on”ってどういう意味だよ」
「ショウは続けなければならない」

 これは、主人公である相葉時之と井ノ原悠の会話だ。
 そしてそれはそのまま、この2人に重なる。
 作家阿部和重と伊坂幸太郎。
 彼らによる完全合作「キャプテンサンダーボルト」は、まさにショウ。それも、舞台だったら迷わずお捻りを渡すであろう、サイッコーのショウだ。(書籍故、定価しかお金が出せないのが嗚呼残念!)
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 相葉時之は、幼い頃から周りに迷惑ばかりかけているヤンチャ坊主だ。

 しかしついにそれがたたり、実家を家屋敷ごと売り払う羽目に。相葉は、それだけは回避したいとあらゆる手を尽くし、結果、大量の金を生み出す(かもしれない)スマートフォンを手に入れる。

 いっぽうで、幼馴染の井ノ原も窮地に追い込まれていた。
 4歳の息子の病院代がかさみ、犯罪レベルの影の副業を続けるものの、借金は増えるばかりだ。

 そんな2人は、ひょんなきっかけで、ある戦隊ヒーローの謎を解く任務を負う。
 その戦隊ヒーローの名は「鳴神戦隊サンダーボルト」。
 このサンダーボルト、かつて主役の不祥事で映画公開が中止になっているのだが、真相は別にあるらしい。
 間違いなく金になる仕事に2人は奮闘するが、いつの間にか彼らは別の方向に走り出していた。
 お金ではない、それ以上の、途轍もなく大きい何かに・・・。
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 文中に「童心回帰」という言葉があるが、これがこの小説のキーワードではないかと思う。
 幼い頃に観た戦隊ヒーロー、埋蔵金、謎の病原体等々、子どもの頃にワクワクしたものがジャンジャカジャンジャカ登場する。
 もちろん内容は、子どもの頃に読んだものよりもずっと長くて難解だ。しかし、大人になってもこのような荒唐無稽な冒険譚を思い切り楽しめるのは、幸せなこと。この小説は、久しぶりにその幸せを気づかせてくれた。

 特に、この物語の背骨である「村上病の真実」は圧巻だ。
 東北地方のごく一部の地域で大量の死者が出た、謎の病村上病。全編500頁超の間中、相葉と井ノ原はこの病の真相に迫りつづけるのだが、いかんせんあまりにも謎が多く、3歩進んで2歩下がる、いや2歩進んで3歩下がるような状態だ。
 しかし、視界ゼロの濃霧が少~しずつ少~しずつ晴れるように真実が見えてくる過程は、読み応え1000%。
 真相がつかめた!と思ったらドジョウのようにすり抜けていく「村上病の真実」は、やや焦れったいと感じてしまうかもしれないが、その焦れったさも、この小説の大いなる魅力。相葉と井ノ原と一緒に、充分焦れていただきたい。それだけ、480頁を越えたあたりでの感慨もひとしおとなるだろう。

 ショウ的要素満載ながら、どこか「現実的な危機」をも感じさせる「キャプテンサンダーボルト」。
 この年末は、相葉ちゃんとイノッチと共に世界を救おう!

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「キャプテンサンダーボルト」 阿部和重/伊坂幸太郎

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反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
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