最後の1分 エレナー・アップデール

 みんながみんな、責任をなすりつける相手を探しているんだ。(本文引用)
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 私の好きな映画に、「NICK OF TIME」がある。
 会計士の男性が突然、娘をさらわれ、「90分以内に州知事を暗殺しないと娘を殺す」と脅されるサスペンスだ。
 この映画の面白さは、主人公に課せられたタイムリミットが、そのまま上映時間になっているということ。
 つまり、上映時間も90分なのだ。
 1時間半の間に、男はいくつもの絶体絶命の危機にぶつかるのだが、その難局の切り抜け方がとにかく最高。何度観ても飽きない傑作である。

 さて一方、この小説は1分を250ページで描いた作品だ。
 65人もの犠牲者を出した爆発事故。その直前の1分間、人々はどのような人生を送っていたのか。
 その模様を1秒1秒克明に描いた異色作だ。
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 舞台は、イギリスの小さな町ヒースウィック。コーヒーショップやクリーニング屋、花屋などが立ち並ぶ商店街ヒースウィック・ハイ・ストリートで、事故は起きる。
 その日、ストリートはたいへんな交通渋滞だった。ガス工事のせいで、片側車線がふさがっていたからだ。

 その様子に、人々は苛立ちを覚えていた。
 校外学習に向かうスクールバスの教師はため息をつき、葬儀場に向かうバスの運転手は、こらえきれずにドアを開け、乗客に降りて歩いてもらう選択をする。

 他にも、様々な人間ドラマがそこにはあった。




 先生の目を盗んでスマホをのぞく少年たち、大きなお腹と幼い娘を抱えた若い母親、恋人の姿を見つけて走り出す女性、花嫁に最高のベールをプレゼントしようと意気込むウエディング・ショップのオーナー、葬儀用の花の調達にてんてこ舞いの花屋、漫談に興じる住所不定・身元不明の男性・・・。

 明日が来ることを何ら疑うことなく過ごしていた彼らだったが、その間、ストリートのあちこちで、小さな不具合が起きていた。
 1秒、また1秒と、その不具合は勢いを増し・・・?
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 この小説は、1分の間の出来事だけで話が進められているわけだが、それだけ聞いても「その1分がどれだけ差し迫ったものなのか」がわかりにくいかもしれない。
 特に、この物語の登場人物は外で立ち働く人ばかりだ。「その時」までの1秒1秒がどれだけ貴重なものかが、本人も読者も実感しにくいだろう。

 しかし本書では、ある人物の登場によって見事にそれを解決している。
 それは、ネットオークションに熱中する女性だ。
 コーヒーショップでネットにつなぎ、ドレスを落札しようと躍起になる彼女は、「その瞬間」にEnterキーを押せるように身構える。その彼女の緊張感が、この小説全体をピリリと引き締めている。

 各章ごとに登場する時計の絵と、交互に現れるチック、タックの文字。
 それと、オークションに集中する彼女の3つが合わさって、魔の1分間は途轍もない爆発力をもつ。その「ただの1分」を「ただならぬ1分」にする巧みな手法には、思わず唸った。

 ちなみに、本書内に書かれているURLから、本事件の中間報告(Interim Report of the Commission of Inquiry into the Heathwick Disaster on 16th December 2011)を読むことができる。
 これがフィクションとは思えない凝りようで、事故現場の様子や原因究明の途中経過、犠牲者の生前の姿等が載せられている。
 あまりにもリアルなので、本当にあった事件なのではないかと調べてしまった(やはり虚構らしいが)。

 たかが1分の出来事を、ここまで膨らませることができる著者のエンタテインメント魂に、ただただ脱帽である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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