クリスマス・プレゼント ジェフリー・ディーヴァー

「愛してるわ」モーが言う。
「ぼくも愛してる」ピートは答えた。これは事実ではなかった。彼女が憎かった。

 (「三角関係」より引用)
_________________________________

 ハロウィンが終わり、街には早くもクリスマスツリーが見られるようになってきた。
 そこで読んだのが、「ボーン・コレクター」等でおなじみジェフリー・ディーヴァーの短編集。その名も「クリスマス・プレゼント」
 先日読んだ「学校では教えてくれない日本語の授業」において、齋藤孝先生も薦めていた極上の「知的ミステリー」だ。

 解説によると、この短編集の原題は“Twisted(捻り)”だという。
 短いものから長いものまで様々あるが、確かにどれも“捻り”が見事に聞いた曲者ぞろい。ちょっとした合間に頭の掃除をしたい、今すぐ何かサプライズが欲しい、といった方にはうってつけの一冊だろう。

 本書には実に16篇もの物語が収められているが、そのなかでも面白かったものをいくつかご紹介したい。

 まず表題作である「クリスマス・プレゼント」
 これは、「ボーン・コレクター」等でおなじみ科学捜査官リンカーン・ライムが主役の物語だ(「ボーン・コレクター」は超弩級に面白く、職場の皆で回し読みした)。

 ある日、ライムのもとに「母親が行方不明になった」との相談が舞い込む。行方不明になったとはいえ、連絡がとれなくなってから4時間という“半行方不明”の状態で、ライムらはいまひとつ気がのらないまま善意で母親捜しをする。
 方々に連絡がとられ、ついには行方不明女性の元夫まで呼び出され、事態は思わぬ大事に。結局、“行方不明”の母親はあっさりと消息がつかめハッピーエンド・・・となるところだったが、その時すでに、次の事件が始まっていた-。




 この物語は、リンカーン・ライムの頭脳が光る一篇。“捻り”というよりも、ライムの驚くべき洞察力に注目すべきだろう。ライムがどの時点で、何に目を光らせて、真相を暴いていくのか。「相棒」の杉下右京ではないが、「細かい点が気になる悪い癖」をもっている名捜査官の名推理を存分に堪能できる。

 他、“捻り”という視点で非常に面白かったのは「サービス料として」「三角関係」だ。
 前者は、「父親の幽霊の声が聞こえる」と訴える女性の話。謎の声に悩む女性は、ある精神分析医に助けを求めるが、なかなか症状は改善せず、日ましに心を病んでいく。そしてついに「幽霊を殺す」ために、夫を手にかけてしまう。
 そこで得た、精神分析医の結論とは?

 後者の「三角関係」は、愛する女性の浮気を疑う男の物語。女性と上司とが恋愛関係にあると悟った男は、「三角関係」というタイトルのミステリー本を手にとり、浮気相手殺害計画を立てる。
 そんなこととは露知らず、女性と上司は、男性の懐柔策を練る。 

「ピートはね、コンピューターとスポーツのこと以外は何もわからないの。それ以外ではただのおばかさんなのよ」

 そんな女性の言葉を聞き、男性はいよいよ怒りの炎を燃え上がらせるのだが・・・?

 この「三角関係」には、やられた。真相を知った瞬間、脳がグルリと一回転し、めまいを起こしたほどだ。小説を読み、これほど驚いたのは「葉桜の季節に君を想うということ 」(文春文庫)以来かもしれない。
 しかし、その“真相”を知ってから改めて読み直すと、これが見事につじつまが合うのだ。
 読みながらずっと頭の中で描いていた風景は、全て修正液で塗りつぶされてしまうが、読み直しながらまた描き直す快感といったら!

 本書を最初から一篇ずつ読んでいると、徐々にこちらの感覚も研ぎ澄まされてきて、だいたいの予想がたてられるようになってくる。
 「こういう話の場合は、この人が怪しいな」、「この人の発言が、ちょっと引っかかるな」など、自分も名探偵気分になり登場人物1人ひとりにルーペを当て、そろりそろりと慎重に読み進めるようになる。まるで雪山に隠された罠を、足先で探るように。
 なのに、これが不思議なことに引っかかってしまうのだから、何とも悔しい。
 しかしその悔しさが大きければ大きいほど、たまらなく心地好いのがミステリーの良さではないか。本書は、そんなミステリーの醍醐味がたっぷりと味わえる。

 ジェフリー・ディーヴァーの「クリスマス・プレゼント」。
 ミステリー好きの方へのクリスマス・プレゼントとして、ぜひ!

関連記事
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告