四次元時計は狂わない ~21世紀 文明の逆説~ 立花隆

 まあ、「山より大きいイノシシは出ない」と思うしかない。(本文引用)
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 読みながら、目の前がどんどん晴れやかになってくる本だ。
 何しろ、あの「知の巨人」の飽くなき知的好奇心・知的興奮が詰まっている。
 もはや、世の中の全てを知っていてもおかしくない「知の巨人」は、今、何に驚き、奮起し、絶望し、希望を見出しているのか。

 がん闘病と東日本大震災を経て、立花隆氏が唱える「日本再生」論。これは、著者と読者が一体になって、新たな発見や認識を喜び合うことができる爽快な一冊だ。
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 本書は、文藝春秋の連載随筆「日本再生」をまとめたものだ。
 戦争、大震災・・・様々な難事に襲われつつも、どうにかこうにか切り抜けてきた日本。次は何がいつ来るかわからないが、その時は「50、60の鼻たれ小僧」が何とかしてくれるだろうと、70代の立花氏は語る。


 そんな「日本はまだまだいける」という考えを軸に、約40編のコラムが掲載されているが、どれにも、著者の知的好奇心が満たされる喜びがあふれている(立花氏の著書は、たいていそうではあるが)。

 なかでも、東日本大震災震源の真上での取材記「巨大地震の謎に迫る」は圧巻だ。
 氏は世界一の深海掘削船「ちきゅう」に乗り込み、未曾有の災害の謎に迫る。
 そこで聞く平朝彦・海洋研究開発機構理事長の話は、東日本大震災の凄まじさと、地震研究に与える影響の大きさを物語るものだ。 

「これまでの地震学でも心臓が病んだときに聴診器で心臓の鼓動を聞くようなことはしてきた。しかし、心臓にメスを入れたり、心臓の細胞を取り出して調べたりは一度もしていない。今回我々がはじめてそれをやろうとしている」

 

「これまでは、『点と線の地震学』しかなかったが、今回『面の地震学』が必要だとわかった」

 この話には立花氏自身も圧倒されたというが、読んでいる私もすっかり気圧された。
 「ちきゅう」が建造された経緯、巨大地震が起こるメカニズム、そしてそれらの計算を全てひっくり返すような東日本大震災の衝撃度・・・。この3年半、様々な書籍や報道を通じて、あの震災の大きさを知ろうと努めてきたが、この体験記が最も腑に落ちた。
 東日本大震災は、どのような意味で“未曾有”なのか。先人たちの知恵も及ばず多数の犠牲者が出てしまったのは、なぜなのか。どのような点で、あの震災・被害の予知は難しかったのか。
 立花氏の緻密な取材と、それに応えるような研究者らの熱意。その2つが合わさってできあがった、この随筆は、それらの疑問におおいに答えてくれる。東日本大震災および地震国日本というものを理解するのに重要な役割を果たすであろう。

 さらに、同じく震災について触れた「黒潮町長の執念」も、たいへん読み応えがある。
 こちらは阪神淡路大震災を通し、西日本への地震の影響に焦点を当てたものである。
 もし南海地震が起きた場合、最大の津波被害が予想される高知県黒潮町。その町が、町ぐるみで「津波犠牲者ゼロ」を目指す計画を進めているという。
 当初は無謀な計画と思っていた立花氏も、その本気度を知り、さっそく現地へ。まだ42歳と若い町長が職員を先導し、180回もの対話集会を開き、町全員が避難計画作りに前向きになっていると言う。その様子を見て、立花氏は「来る前は全く不可能と思えた犠牲者ゼロが、現実性を帯びた可能性として見えてきた」と語る。

 本書には、自然、医学、宇宙、歴史、文学、芸術等幅広い分野の随筆が載せられているが、「日本再生」というテーマをベースに捉えるならば、この黒潮町長の話が全編を率いているように思う。
 冒頭で立花氏は、大変な苦難を乗り越えた者たちを「ポスト・トラウマティク・グロウス(外傷後成長)」=「PTG」世代と名づけ、彼らに日本再生の期待をかけているが、この町長はそれを代表する人物ではないか。その存在を知ることができただけでも、本書は非常に価値があった。黒潮町長と、その取り組みを伝えてくれた立花氏には心から感謝したい。

 まだまだ酷い事態に巻き込まれる可能性の高い若者達と、それを気にかけながら次世代にバトンを渡していく中高年、高齢者。
 この本を読むべきは、いったいどちらの世代か? 答は両方。本書は全ての世代へのエールとなる、頼もしい一冊なのである。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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