荒神 宮部みゆき

 あの怪物は、人の咎だ。(本文引用)

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 子どもの頃、高階良子の漫画が好きだった。
 「ピアノソナタ殺人事件」「交換日記殺人事件」「血とばらの悪魔」・・・。鳥肌の立つようなミステリーやオカルトを描きながら、人間の業の深さをえぐる作風がたまらなく面白く、江戸川乱歩や横溝正史の小説と併行して貪るように読んでいた。
 
 その高階氏の作品のなかに、たしか蛇になった少女の物語があった。体内に蛇が入り込んだ夢を見た翌日から、体が冷えて仕方がない。そのうち体の表面が蛇のようになり、ついに口から長い舌を出し、這って移動をするようになってしまう。
 ラストはめでたしめでたしとなるのだが、そのストーリー展開と絵柄が強烈で、読後30年以上経った今でも忘れられない。
 宮部みゆきの「荒神」は、そんな高階作品を思い出させる。


 得体のしれない巨大生物が、山で人々を食い殺す、絞め殺す、焼き殺す。
 そこに、オレンジ色のスーツとヘルメットを着用した地球防衛隊が来る・・・のではなく、着物姿の侍たちが立ち向かう。
 まるで吉村昭「羆嵐」のUMA(未確認動物)版といった物語だが、果たしてこの戦いから見えてきたものとは?

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 舞台は元禄時代の陸奥の国。
 下野に近いある村落は、二つの藩に分かれていた。ひとつは永津野藩、もうひとつは香山藩。隣り合うこの両藩であるが、実は正反対の風土をもっていた。
 たとえるならそれは、天国と地獄。永津野藩は、その圧政と年貢のとりたての厳しさで地獄と呼ばれ、それとは対照的な香山藩は極楽とされていたのだ。

 ある日、両藩をまたぐ山で怪我人が発見される。当初、それは「人狩り」の仕業ではないかと噂される。「人狩り」とは、永津野藩から香山藩に逃げた人物を無理やり連れ戻す一行だ。
 しかし怪我の様子や人々の証言から、これは人間の仕業ではないと断定される。
 人々はその真相に迫るべく山に入るが、そこにいたのは、この世のものとは思えぬ怪物であった。
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 本書を読む前から、宮部氏のインタビュー等で「怪獣のようなものが出るらしい」と聞いてはいた。しかし心のどこかで、「怪獣なんて、まさか。よく見たら人間でした、っていう話じゃないのか」と高をくくっていた。
 が、本当に怪獣が登場したのだから驚いた。
 「だから怪獣が出ると言ったではないか」と思われるであろうが、実際にこうして文章で“怪獣”というものを読んでみると、その迫力に圧倒される。これはもちろん、怪獣というものがすごいのではなく、ベテラン作家宮部みゆきの筆力によるものなのだが、それにしても、このリアルさには瞠目する。
 ノンフィクション作家・高野秀行氏がこれを読んだら、「東北のほうに怪獣がいるらしいんで、今から行ってきます」と旅に出てしまいそうだ。(幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)参照)

 さらに、その捕物劇も圧巻だ。舌に巻きつかれ、酸で焼かれ、二股の尾に絡め取られながらの闘いは、まさに死闘。読んでいる私まで、必死で怪物を斬りつけている気分になり、気がつくと息が荒くなっていた。

 物語終盤は、怪物の正体をめぐり、今度は人間同士の腹の探り合いとなる。そしていよいよ本当に恐ろしいものが見えてくる。
 さらにそれが怪物を倒すツボともなるのだが、それはいったい何か。野心か?驕慢か?欺瞞か?猜疑か?憎悪か?悔恨か?
 まだまだ書きたいことはあるが、今日はここでおしまい。
 とびきりの娯楽小説を、私の説教じみた文章で生臭いものにしたくない。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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