銀翼のイカロス 池井戸潤

 「警察にあって銀行にないものがひとつある――」
 「なんだそりゃ」富岡がきいた。
 「時効ですよ」
 半沢はこたえた。

(本文引用)
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 われらが半沢直樹が、またまたやってくれた!
 ・・・と言いたいところだが、今回は少し違う。そしてその違いが、この物語の良さだと私は思う。
 その「違い」とはズバリ、「ヒーローが半沢直樹だけではない」という点だ。
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 東京中央銀行営業第二部次長の半沢直樹は、ある日、部長の内藤から重要な任務を言い渡される。それは、帝国航空の修正再建案をまとめるというものだ。
 帝国航空は日本を代表する航空会社だが、業績の悪化と社員への厚遇で、財務状態はもはや瀕死の状態だ。東京中央銀行からも巨額の融資をしており、もし帝国航空が破綻すれば大打撃を受ける。半沢は帝国航空の自主再建に向けて案を練っていく。


 そんな折、政権が交代し、新しく就いた国交大臣のもと、帝国航空を再生させるタスクフォースが立ち上げられる。
 そこで打ち出された案は何と、「銀行に一律七割の債権カットをお願いする」-事実上の債権放棄というものだった。
 帝国航空自身の力で再建が可能と考える半沢は、その無茶苦茶な案に猛反発をする。
 しかしその案には、東京中央銀行の行員も一枚かんでいた。
 巧みに入り組んだ巨悪に、ジリジリと追い詰められる半沢。さあ、どうする?どうなる?
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 いや~、相変わらず文句なしの面白さだった。しかし今回の面白さは、前回までにも増して爽やかな面白さだった。
 それは前述したように、「ヒーローが半沢だけではない」からだ。
 今回、半沢が向き合う相手は、今までとは段違いに巨大だ。国の交通を代表する企業を建てなおし、そのために銀行や一企業だけではない、政府までも相手に戦わねばならない。半沢直樹シリーズ前3作に比べ、はるかにスケールが大きいのだ。

 それだけに、日々真面目に働くまともな人間たちが、一枚岩になってぶつかっていく必要があるのだが、その姿が何ともまぶしい。
 特に印象的なのが、帝国航空再建に関する合同報告発表会の場面だ。
 これは帝国航空に融資している各銀行が、債権放棄をするか否かを発表するシーンなのだが、これには心底シビれた。
 銀行のプライド、金融システムの保全・・・様々な思いが交錯するなかで次々と表明される彼らの結論には、胸がすく思いとともに、ただただ感動。ここで物語が終わるわけではない(むしろここからが本番)が、半沢がスーパー銀行員なのではない、銀行員は皆頑張っているんだ、半沢直樹はどこにでもいるのだ、ということがよくわかる名場面である。

 そしてもうひとり、この物語には半沢より偉大なヒーローがいる。
 それは他でもない、中野渡頭取だ。
 今作には、中野渡頭取の苦渋の決断シーンが随所に登場する。正義を貫くか、悪にひれ伏すか。銀行の体面をとるか、真の信頼をとるか。行員の生活までかかった、そのギリギリの選択には思わず固唾をのんだ。
 中野渡頭取こそ、今作最大の英雄であろう。

 ちなみに、旧T(東京第一銀行)組と旧S(産業中央銀行)組とのつばぜり合いが、まだしつこく続いているのもファンとしては嬉しいところ。
 あの大和田常務との対決もまだくすぶり続けており、その構図はもはや水戸黄門を通り越してウルトラマンシリーズ。
 ゼットン半沢に敗れたウルトラマン大和田の敵を討つべく、旧T一同がウルトラセブンかゾフィーとなって、ゼットン半沢を倒しにかかるといった格好だ(あれ?これじゃ正義と悪が逆か)。

 そしてこの半沢直樹シリーズそのものも、まだまだ続いていきそうなラストも心地好い。
 次はどんな巨悪が待っているのか。それに対し、誰がどんな覚悟で戦いを挑むのか。

 早くも次作が楽しみな、今日この頃である。

 最後に。
 池井戸先生が最も楽しく書いているのは、黒崎のセリフなのではないだろうか。 

「恥ずかしくないの、あなた」

 

「余計なところまで読むんじゃないわよ!」

 

「あなた、意外と想像力逞しいのね」

 ものすごくノリにノッて書いているように見えるのだが・・・。

※勝手にキャスティングしてみました(敬称略)
乃原:高杉亘 
白井亜希子:木村佳乃
紀本:本田博太郎
田島:塚地武雅
富岡:内野聖陽




これまでの半沢直樹シリーズレビュー↓
「オレたちバブル入行組」
「オレたち花のバブル組」
「ロスジェネの逆襲」
「ロスジェネの逆襲 ~ドラマ『半沢直樹』終了記念」

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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