ボクは算数しか出来なかった 小平邦彦

 後年、数学者になって数学の理論を構成したとき、理論をつくるのも玩具をつくるのに似た所があると感じた。両方とも与えられた材料が定まっていて、うまく工夫しないと望みのものがつくれないからである。
 (本文引用)
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 淡々とした本である。あっさりとした味わいである。しかし、その文体の奥には、学問に対する並々ならぬ情熱が仄見え、読む者を体の奥から奮い立たせるものがある。
 日本人初のフィールズ賞受賞者小平邦彦。
 天才数学者が語る人生、学問、教育は、著者が愛するピアノの調べのように、静かさと激しさが同居する実に味わい深いものであった。
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 大正時代初めに生まれた小平氏は、繰り返し豆を数えて遊ぶなど、幼い頃から数に対し並々ならぬ興味をもつ。中学でも数学の本を好んで読み、その本からヒントを得、独自の方法で問題を解くなどする。



 そんな小平少年は、その後一高、東大に進学。友人と共に切磋琢磨しながら学問に励む。また同時に彼はピアノのレッスンも始め、その縁で生涯の伴侶とも出会う。
 そして小平氏が教師として学生たちを指導する立場になって間もなく、太平洋戦争が勃発。東京の大空襲のなか、氏は親類や学生たちの疎開先を探し、食糧難のなか勉強を続ける――。
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 ここまではまだ本書の序章に過ぎず、ここから小平氏の数学者人生が本格的に始まり面白くなっていくのだが、とりあえずここで休憩。ただ、ここまでの氏の歩みの中に、小平氏の人生や思考の素は凝縮されていると思う。

 まず小平氏の「数」というものに対する深い関心、そして鋭い観察力に驚かされる。
 これは解説で上野健爾氏も書いているが、飼犬のエピソードが面白い。
 小平氏は小学5年生の時、メスの小犬を飼いはじめる。その犬は年2回、5~6匹子犬を産んだという。そこで試しに6匹の子犬を全て隠してみると、親犬は泣きながら探し回るが、そのうち1匹だけ残してみると、あとの5匹が隠されているということに全く気づかなかったという。
 それを受けて小平少年は、思う。 

これで犬には数量の観念が皆無であることがわかった。

 実際問題、犬に数の観念があるのかどうかはわからない。しかし、小平氏が“数”というものに対し、非常に強い興味を示していたことだけは、よくわかるエピソードだ。

 その他にも、教科書通りではなく、自分で読んだ数学書から独自の解法を編みだし、先生に「君は補助線が好きな男だねー」と言われたという話も面白い。
 元々の才能もあろうが、本当に好きなことをとことん突き詰めていく姿勢には、恐れ入ると同時に心がわき立つ。
 自分が、子どもの頃から好きだったものって何だろう。寝食を忘れて没頭できるものって何だろう。本書を読んでいると、思わずそんなことをじっくりと考えたくなる。
 そしてすでにそれが見つかっている人は、本書を読めばきっと「よし!やるぞ」と奮起することだろう。

 さらに注目すべきは、小平氏の生き方が「自分さえ成功すれば良いというものではない」点だ。
 
 戦争のひもじい状況のなかで、自分含め学生たちは必死で勉強をし、一流となっていく。そういった経験から、小平氏は現代の若者たちの学力不足を憂い、最後に子どもたちの教育に関し提言をする。
 氏は子どもの時に基礎教科(国語・算数)を徹底的に教え、他の教科は生徒が適齢に達してからゆっくり教えるべきであるとし、それらの教科時間が等しく配されていることに苦言を述べる。 

これでは子供のために教科があるのか、教科のために子供がいるのかわからない。昔よりも進歩しているはずの現在の教育が実は退歩しているのではないか?と疑わざるを得ない。

 小平氏がこのように語ったのは、昭和57年の「ゆとり教育」真っ只中でのことなので、今は当てはまらないかもしれないが、私は看過できないものを感じた。
 頭を鍛えに鍛えてきた著者による、学力と独創力を養うためのアドバイスだ。時代が違うからと、どうして無視することができようか、と私は食らいつくように読んだ。

 超一流の数学者が振り返る、“数”と“人”と“未来”を愛しつづけた人生。
 サラサラ読めるが、読んだ後は生きるエネルギーが湧いてくること請け合いである。

 (※本書に掲載されている、ノーベル賞物理学者・南部陽一郎先生が撮った「アインシュタインの写真」も必見。)

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ボクは算数しか出来なかった

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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