「日の名残り」
「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ。」
(本文引用)
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2世紀にわたる名門貴族ダーリントン家の執事・スティーブンスは、人生の全てをダーリントン卿に捧げてきた。
世界大戦に関わる重要な会議では、まるで空気のように名士たちをもてなし、卿の恥は自分の恥と身を挺して主人を守る。
それを彼は快感に思いながらも、一方で葛藤との戦いでもあった。
同じくダーリントン家に仕える年老いた父親への解雇通告、女中頭との確執・・・。
「泣いて馬謖を斬る」ような場面に何度も会いながら、スティーブンスはただひたすら業務を遂行し、ダーリントン・ホールにまつわる人達との信頼関係を構築していく。
しかしそんなある日、ダーリントン家の屋敷がアメリカ人の手元に渡ることとなる。
イギリス人の主人から、文化も風習も違うアメリカ人の主人に変わるということは、スティーブンスにとっては一大事である。
スティーブンスは新しい職務計画書を作成することになるのだが、戸惑うばかり。
ダーリントン卿のもとでの日々を懐かしく思いつつも、執事として新しい主人に仕える準備を怠ってはならない。
それを慮ってか、新しい主人ファラディは、スティーブンスに休暇を与える。
スティーブンスは田園のなか、フォードを走らせて旅をする。
そこで彼が決意したものとは・・・?
・・・これを読んでいると、一生懸命に働いている人の姿というのは、何と清々しくて美しいものだろう、そして人の信頼を得ている人間というのは、何て太陽が似合うのだろう、と空を見上げたくなる。
スティーブンスは、見ようによってはちょっと不恰好なほどに真面目だが、仕事をする人間のあるべき姿が凝縮されている。いや、生きるべき人間のあるべき姿、といった方が良いだろうか。
そんな純粋な彼が悩み苦しむ姿を追っていると、自分まで一緒に旅をしているような気持ちになり、時々、涙をぬぐうハンカチを貸してあげたくなってしまう。
そんな「美しい人間」が描かれた、実に「美しい物語」だ。
そして、このレビュー冒頭に載せた言葉。
真面目に誠実に、仕事のプロに徹してきたスティーブンスだからこそ味わえる、至福の夕方なのだ。
私もいつか、人生の夕方を迎えるだろう。
そのときに、美しい夕日を見ることができるように生きていきたいものである。
(本文引用)
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「仕事のプロ」とは、どんな人を指すのだろう。
雇用主の理念を理解し、
忠実に業務を遂行し、
機密情報を守り、
柔軟性を持って状況に適応していく・・・
そんなところであろうか。
できそうでできないこれらのことを全て実現し、企業や社会に利益をもたらしているスーパービジネスマンの姿は、いわゆるビジネス本ではよくみられる。
しかし、そんな本とはかけ離れた小説に、真の「仕事のプロ」の姿を見ることができた。
The Remains of the Day-カズオ・イシグロ著「日の名残り」である。
この作品は、英国で最高の文学賞ブッカー賞を受賞し、映画化もされた、イギリスでは代表的な小説だ。
表紙にはイギリスの田園風景が描かれ、舞台は貴族の屋敷・・・叙情的な小説であることは想像できても、ビジネスのプロが登場するとはにわかに想像できないであろう。
しかし、この小説の中に、確かに「仕事のプロ」はいる。
「謎解きは~」ではないが、主人公である執事の男性である。
雇用主の理念を理解し、
忠実に業務を遂行し、
機密情報を守り、
柔軟性を持って状況に適応していく・・・
そんなところであろうか。
できそうでできないこれらのことを全て実現し、企業や社会に利益をもたらしているスーパービジネスマンの姿は、いわゆるビジネス本ではよくみられる。
しかし、そんな本とはかけ離れた小説に、真の「仕事のプロ」の姿を見ることができた。
The Remains of the Day-カズオ・イシグロ著「日の名残り」である。
この作品は、英国で最高の文学賞ブッカー賞を受賞し、映画化もされた、イギリスでは代表的な小説だ。
表紙にはイギリスの田園風景が描かれ、舞台は貴族の屋敷・・・叙情的な小説であることは想像できても、ビジネスのプロが登場するとはにわかに想像できないであろう。
しかし、この小説の中に、確かに「仕事のプロ」はいる。
「謎解きは~」ではないが、主人公である執事の男性である。
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2世紀にわたる名門貴族ダーリントン家の執事・スティーブンスは、人生の全てをダーリントン卿に捧げてきた。
世界大戦に関わる重要な会議では、まるで空気のように名士たちをもてなし、卿の恥は自分の恥と身を挺して主人を守る。
それを彼は快感に思いながらも、一方で葛藤との戦いでもあった。
同じくダーリントン家に仕える年老いた父親への解雇通告、女中頭との確執・・・。
「泣いて馬謖を斬る」ような場面に何度も会いながら、スティーブンスはただひたすら業務を遂行し、ダーリントン・ホールにまつわる人達との信頼関係を構築していく。
しかしそんなある日、ダーリントン家の屋敷がアメリカ人の手元に渡ることとなる。
イギリス人の主人から、文化も風習も違うアメリカ人の主人に変わるということは、スティーブンスにとっては一大事である。
「私も従来のやり方を急に変えてしまうことにはためらいをおぼえます。しかし、伝統のための伝統にしがみつくやり方にも反対です」
スティーブンスは新しい職務計画書を作成することになるのだが、戸惑うばかり。
ダーリントン卿のもとでの日々を懐かしく思いつつも、執事として新しい主人に仕える準備を怠ってはならない。
それを慮ってか、新しい主人ファラディは、スティーブンスに休暇を与える。
スティーブンスは田園のなか、フォードを走らせて旅をする。
そこで彼が決意したものとは・・・?
・・・これを読んでいると、一生懸命に働いている人の姿というのは、何と清々しくて美しいものだろう、そして人の信頼を得ている人間というのは、何て太陽が似合うのだろう、と空を見上げたくなる。
スティーブンスは、見ようによってはちょっと不恰好なほどに真面目だが、仕事をする人間のあるべき姿が凝縮されている。いや、生きるべき人間のあるべき姿、といった方が良いだろうか。
そんな純粋な彼が悩み苦しむ姿を追っていると、自分まで一緒に旅をしているような気持ちになり、時々、涙をぬぐうハンカチを貸してあげたくなってしまう。
そんな「美しい人間」が描かれた、実に「美しい物語」だ。
そして、このレビュー冒頭に載せた言葉。
この夕日は、今を人生の夕暮れ時と考えての言葉であろうが、誰もが素晴らしい夕方を過ごせるわけではないだろう。「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ。」
真面目に誠実に、仕事のプロに徹してきたスティーブンスだからこそ味わえる、至福の夕方なのだ。
私もいつか、人生の夕方を迎えるだろう。
そのときに、美しい夕日を見ることができるように生きていきたいものである。
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