集合知とは何か ~ネット時代の「知」のゆくえ~ 西垣通

 なぜなら、個々の血のにじむような体験からなる、くり返せない主観的世界こそ、生命体である人間にとって最も大切なものだからだ。
(本文引用)
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 日本経済新聞に、こんな連載コラムがあった。
 
 「迫真 ~幻のSTAP~」。

 全5回からなるこの記事の最後は、ずばり「集合知の審判」。海外の一流誌にすら載ったSTAP論文は、ブログ、メルマガ等で疑義を呈した個々の専門家らによる「集合知」で、白紙に戻ったとする内容である。(2014/06/27朝刊)

 そこでこの「集合知とは何か」である。
 上記の記事にある「集合知」は「専門知と集合知の合体」という気がするが、本書でとりあげる「集合知」とはもっと純粋な「寄せ集め」。そう、「一般の素人の声からなるもの」を指す。
 その前提で果たして、集合知は専門知を超えるのか?
 そもそも「知」とは何を指すのか?
 本当に必要な「知」とは何か?


 そのうえで、これからITが果たすべき役割は何かを、本書では考えていく。
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 情報学・メディア論を専門とする著者は、まず東日本大震災の原発事故に対する人々の声を例にとり、専門知の失墜を語る。
 メディアで報じられる専門家の意見と、実態との乖離を感じ取った市民たちは、ネット上の集合知から己の行動を判断していく。それはもはや“衆愚”という言葉は似つかわしくないものである。

 しかしだからといって、「専門知は信用できず、集合知は信用できる」と断定するのは早計だ。
 そこで著者は、出題される問題を「明確な答が出せる問題」と「答が出せない問題」とに分けて検証し、人間にとって本当に必要な「知」とは何かを熱っぽく説いていく。
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 読みながら、私がまず思い出したのは「懇談会」の類の集まりだ。
 学校や地域などで、誰でも一度は懇談会やグループミーティングといった話し合いに参加したことはあるだろう。
 「えっ?ネットの話じゃないの?」と思われるかもしれないが、あのような集まりこそ真の「集合知」ではないのか、と本書を読み思った。

 著者は大学で学生たちの論文等を見ながら、「知」というものの定義に違和感を覚える。
 学生たちは「知識」というものを、「既存の権威づけられたもの」と思いこんでいる節があり、それを伝授してもらうのが「授業」だと思っている。
 だからレポートはネットのコピペで仕上げ、正解のない問題を出せば、良い答を書いているにも関わらず「これは個人的意見にすぎません」と書いてくる。
 西垣氏は、そんな学生らの姿を通して「知識とは、上から与えられるものではない」と語る。そして身を以て体験して得た体験知の重要性を唱え、それをネットで有意義に得るためには、「社会集団の下位レベルにある暗黙知や感性的な深層をすくいあげ、明示化するような機能が、ITに期待される」と主張する。

 だから私は、「懇談会」=「同じ共同体にいる人同士で、実際に会って話し合う」場というものを思い出した。そして、そのような場に参加することの重要性を改めて感じた。
 たしかにネット上での討論に比べると、参加人数は少ないかもしれない。
 しかし、自らの体験から得た、受け売りではない自分だけの「主観的知識」を交換し合い、ほどほどに多様な「主観的知識」が出そろったところで、当事者メンバーが納得する「客観的知識」をまとめていき、共同体を形成していく。
 それが集合知の理想的な作り方であり、集合知の活かし方なのではないか。ネットを批判するわけではないが、まずそのような足元から見つめ直すべきなのではないか、そう思うのだ。
 この本を読まなかったら、自分や身近な人々がもつ体験知を蔑ろにし、自分の生活とかけはなれた“バーチャル集合知”を崇拝し、翻弄されてしまったかもしれない。そう考えるとゾッとする。

 専門用語などもあり、正直に言ってやや(いや、かなり)難しい印象を受けたが、主張はシンプル。気がつけば「自分が必要と思いこんでいた無駄なもの」が削ぎ落とされ、「自分にとって本当に必要なこと」がキラリと見えてくる。

 そんな言葉が、「コンピュータやサイバネティクスとつきあい始めて40年あまり」という情報学者の方から聞けるというのは、何だかちょっと痛快な気分である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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