ずる ~嘘とごまかしの行動経済学~ ダン・アリエリー

 実際、わたしたちは自分をだますのがとてもうまいのだ。
 (本文引用)
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 今年はやたらと、「不正」や「捏造」といった言葉を聞く。小学生たちの口からも「ネツゾー」などという言葉が出てくるのを聞くと、いささか暗澹たる気持ちになる。

 そしてそんな事件が起きるたびに聞こえてくるのが、「本人、出てこい」というものだ。
 実は私もそう思っていた。不正であろうがなかろうが、正直どっちでも良いのだが、本人が出てこないことにはねぇ・・・何でなかなか出てこないのだろう?と。

 しかしこの本を読み、その疑問や苛立ちは氷解した。
 なぜなら、「不正であるかどうかを本人が釈明するというのは、もんのすっごく難しい」ということがわかったからだ。


 えっ、なぜ難しいかって?
 それは、「人間は自分をだますのがとてもうまい」、つまり「本人は不正をしたとは思っていない」からである。
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 本書の著者ダン・アリエリー氏は、かつて「高価な偽薬は安価な偽薬よりも効力が高いことを示した」研究で、イグノーベル賞を受賞している。(イグノーベル賞受賞者の本は、笑いながら学べることはまず間違いない。レン・フィッシャー氏の「群れはなぜ同じ方向を目指すのか?」も抱腹絶倒の面白さだ。)

 この功績からもわかるように、著者は認知心理学における非常にユニークな実験・分析を行っているのだが、本書で紹介される実験・考察もとても面白い。
 「人は、どのような状況で嘘・ごまかし・不正を行うか」を多種多様な実験からあぶり出し、不正を防ぐ策をあれこれと練っていく。

 たとえばテストの点数の不正は、どんなときに起こるか。答案を提出し、他者に採点してもらう場合と、自己採点をして答案をシュレッダーにかける場合とでは点数が変わるだろうか。
 たとえばタクシー料金の不正は、どんなときに起こるか。遠回りやメーターの操作を見ることができない視覚障碍者に対して、運転手は不正を犯すものだろうか。
 たとえば、不正によって現金がもらえる場合と、現金につながる代用品がもらえる場合とでは、不正が起こる確率は異なるだろうか。
 医師がやたらと新しい治療を試したがっている場合は、何が隠されているか、保険金の不正を防ぐには申請書類の署名の位置を変えてみたらどうか等々、日常生活に潜む、大小さまざまな不正・嘘・ごまかしについて、著者はとことん実験を重ねていく。

 そんな、実にバリエーション豊富な実験をとおしてわかるのが、ずばり「人は自分自身にコロッとだまされる」ということだ。

 そのなかで面白かったのは、製薬会社のMRの営業戦略の話だ(※MR一般の話ではなく、あくまで戦略の一例である)。
 ある1人の医師に報酬を贈り、自分たちが売り込もうとしている医薬品について、他の医師たち相手に講演をしてもらうよう頼む。
 これだけ聞くと、ターゲットは「講演を聞かされる、他の医師たち」だと思うだろう。
 ところがこれが違う。狙いは「講演をした医師」だ。講演を行った医師は、自分の口から出た言葉を信じるようになり、それをもとに薬を処方するようになったのだという。
 この「自分にだまされる」という現象は、読んでいて鳥肌が立った。

 本書には、他にも「自分にだまされた」実例が随所に載せられており、どれも思わず息をのむ。
 長蛇の列から切り抜けるために車いすを使った結果、バリアフリーがなっていないと、本気で憤慨してオフィスに怒鳴りこんだという著者の実体験や、スタンリー・キューブリックになりすました男の話等々、「こんなに簡単に、人は自分自身にだまされてしまうのか!」と戦慄した。

 さらに自己欺瞞の根は深く、実験データをつい自分の予想通りになるようにねじ曲げてしまいそうになる心理も、著者自身の経験から強い説得力をもって語られている。
 これほど、「今読むべき」・・・というか「今読んだら面白い」といえる一冊はないのではないか。

 そして著者は言う。

 不正はどこにでも見られるのに、わたしたちは自分がどうやって不正に魔法をかけられるのかを本能的に理解することができず、それに何より、自分が不正をするなどとは思ってもいないのだ。


 こんな風に書くと、人間を信じられなくなりそうだが、読後感はとても爽やか。
 それはきっと熱心な研究とユーモアあふれる文章、そして重度の火傷で入院した経験をもつ著者が、「罪のない嘘」「ありがたい嘘」があることにも触れているからだろう。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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