あなた自身の社会 スウェーデンの中学教科書

 あなた自身の人生の階段はどんな形にしたいですか。
(「わたしたちの社会保障」内設問より)
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 このたび、平成27年度から小学校で使われる教科書の検定結果が公表された。
 そのなかで話題なのは、領土問題についての解説だ。
 竹島や尖閣諸島について、初めて「日本固有の領土」と明記されているという。その問題について、子どもたちがどのように学び、どのように考えていくのかが注目されるところだ。

 そこでこのたび再読したのが、スウェーデンの社会科の教科書「あなた自身の社会」
 これは、タイトル通り「あなた自身の社会」を生きるための指南書。強くしなやかに育ってほしい、自分の人生を力強く歩んでほしいとの願いがあふれんばかりに込められた名著である。


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 本書が対象としているのは、スウェーデンの義務教育の高学年、14歳から15歳の子どもたち。日本でいえば中学2~3年生といったところだ。
 
 スウェーデンでは、13歳から「両親の許可のもとで(あなたは)家庭の外で軽労働に就くことができ」るが、法的にはもちろん未成年である。よって彼らは、大人のような子供のような、でもどちらでもないような年頃である。
 しかし確実なのは、近い将来、社会的責任を負うべき存在となること。
 15歳になれば、原付バイクが運転できるようになる代わりに、犯罪をおかせば裁判にかけられ、16歳になれば自分で稼いだお金は自分で使い道を決めることができ、18歳になれば結婚ができ、選挙権も得られ、強いビールを飲むこともできる。

 だからこそ、この教科書が必要とされる。
 本書は、これから責任ある大人となっていく生徒たちに、法律とは何か、犯罪とは何か、いじめとは何か、恋愛とは、結婚とは、家族とは、仕事とは何かを、あらゆる方向から十分に考えさせるよう仕向けていく。

 たとえば「犯罪」の項では、「どんな犯罪が重大であるか」を考えさせる設問がある。

 収入の帳簿をつけずに税金を払おうとした商店主、少年少女に麻薬の密売をした失業中の男性、有毒な化学物質を排出した工場経営者、酒気帯び運転による交通事故、情報漏えい、移民に対する放火殺人・・・。

 これらの犯罪について、刑罰の順位をつけるべく、グループで討論をさせる。

 この設問については、あとがきでも解説されているが、グループ間での順位のバラツキがなかなか面白い。
 また、1位としたグループが最も多い犯罪、つまり「より多くの生徒が、最も重いと考えた」犯罪が、私の視点からするとやや・・・いや結構意外であり、国による違いも見て取れる。(おそらく青少年の間で「最も問題となっているもの」が、日本とスウェーデンとでは違うのであろう。)

 また、性別に関する設問も奥深い。
 
 男子と女子とでは、学校や職業選択において、なぜこれほど違いがあるのか。なぜ所得に差があるのか。
 さらに、この質問の前哨戦として「クラスでの男子と女子の役割」の様子について、生徒たちに考えさせる。

 性の問題において、さらに面白いのは、結婚観における「インド人との違い」について考えさせる問いだ。

 本人同士が結婚を決めるスウェーデンと違い、親が子どもの結婚相手を決めるインド。一見、インドのやり方が滅茶苦茶なような気がするが、当のインド人の見解を読むと、これがなかなか理にかなっている。
 それを踏まえて、生徒たちに「愛情、恋愛、結婚」について問うていく。本書には、そこから生徒たちがどのように考え答えていくのかは書かれていないが、この授業の前と後とでは、かなり考えが変わっているのではないだろうか。

 今まで想像もしなかった世界があること、でもそれも決しておかしいわけではないこと、そして自分が当たり前と思っていたことが実は当たり前ではないこと。それらが一度に頭を駆け巡り、悩み、自分を見つめ、考えをまとめ、慎重に言葉を選びながら、生徒たちは活き活きと発言していくことであろう。
 (余談だが、この結婚観については、モハメド・オマル・アブディン氏の「わが盲想」にも驚いた。が、このインド人の方の主張を読み、アブディン氏の選択に非常に合点がいった。)

 そして、今は疲れ知らずの生徒たちも、やがて誰かの助けを必要とするようになる。
 年をとり、病気にかかるようになり、仕事からも離れていく。知り合いも少なくなっていく。
 
 そんなとき、自分は何を望むか。どんな医療を受けたいか、どのような年金制度になっていればよいと思うか。
 人生の階段を描いた2枚の絵――1枚はずっと昇りつづけ、1枚は途中から下降していく――を見つめながら、生徒たちは自分の人生と、それを囲む社会を考えていく。
 何とスケールの大きい、そして何と実用的な教科書であることか。読めば読むほど感嘆せずにはいられない。

 巻末の解説「『あなた自身の社会』の周辺」において、この社会科の授業の学習目標が掲げられている。
 それは政治や自然環境、世界平和や権利と義務に対する深い理解ももちろんだが、最後に書かれた目標はこうだ。

 自分の意見を発表し、議論する能力を育てる。それを通じて、市民として社会発展に貢献する自信を獲得する。

 各章、各項目の最後に出される鋭い設題の数々。それらに真摯に向き合った生徒たちは、きっとこの目標を達成するに違いない。

 そしてもちろん、この本を手に取った世界中の人たちも、きっと・・・。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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