セラピスト 最相葉月

 クライエントが自分の力で変わっていけるようになるために、クライエントは自分を知り、セラピストもまた、自分を知っていなければならないということですね。(本文引用)
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 先日、当ブログでご紹介した河合隼雄著「こころの読書教室」に、こんな場面が書かれていた。
 
 ある子どもが、学校に行っていないとする。
 それを聞くと、普通の人は必ず「いつから行ってないの」とか「どうにかしたら行けるんじゃないか」とか「お父さんの職業は?」などと聞いてくる。そこで子どもが「父親は大学の教授です」と答えたら「そら、あかんわ」とか何とか言う、と。
 そして河合氏は語る。そんな、聞き手に自我が働きすぎている会話からは何もわからない、と。

 臨床心理学者の河合氏は、心に問題を抱えた者――クライエントに対し、「心の扉をできるだけ開くように聞く」ことをプロフェッショナルとして心がけており、「学校に行ってへんです」と言われれば「あ、そう」と言うだけで、相手が黙っていれば自分もほぼ黙っているぐらいだという。そしてそれができるようになるには「修練」が必要だと語る。

 そこでこの「セラピスト」である。
 河合隼雄の逝去に伴い、氏の功績を目にした最相葉月氏が、それをきっかけにカウンセリングの世界に飛び込んだ。
 そうして著わされた本書は、まさしく河合氏が語る「修練」の経緯。これを読むと、なぜ「学校に行ってへんです」と言われれば「あ、そう」と言うに留めるべきなのかがよくわかる。
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 本書にはまず、様々な心理療法が口絵付きで紹介されている。

 画用紙に木を描かせる「バウムテスト」、空間を分割し色を塗らせる「色彩分割」、枠の有無によって結果が明らかに違ってくる「なぐり描き」、そしてこの本の核ともいえる療法「箱庭療法」だ。
 箱庭療法は、砂を入れた箱に様々なミニチュアおもちゃを置いていく心理療法で、その療法から見える患者の心の変化は、たいへん興味深い。砂の山に何も置かなかった子どもが、療法を続けるうちに緑の木々を置き始める。中途失明し、人生に絶望した女性が、箱庭と作ることで再び世界とつながろうとしていく。
 それには長い時間を要するし、また100%効果があるわけではないかもしれないが、箱庭を作ることが、これほど自分の心を映し出し、自分の心を変えていくという事実には驚かずにはいられない。

 しかし、どの療法にしても重要なのは、クライエントが「自ら引き上げられ、変わっていかなければならない」という点だ。

 「クライエントによりますが、基本的に人間は簡単に浮いてくるんです。無理に引っ張り上げようと思う必要はない。ただ、浮いてこなかったときにどうするかは工夫がいります」

 そう、クライエントが自ら浮いてくるためには、カウンセラー、セラピストは自我を押し出してはいけない。さらにそれを旨としながら、一個人として患者とどう向き合うかが腕のみせどころだ。

 これについては、著者である最相氏自身の体験も語られている。
 20年近く遠距離介護を続けている最相氏が、そのしんどさをカウンセラーに打ち明けるのだが、それを聞いたカウンセラーは次第に自分の介護体験ばかりを話しはじめたという。最相氏はその時、「お金を払ってまであなたの自分語りを聞きたくないと、途中で帰りたい気持ちになった」と語る。

 それに続けて書かれた、ベテラン臨床心理士のカウンセリングの様子が、実に対照的で興味深い。
 そして面白いことに、この前者と後者の比較から、効果的なカウンセリングとは果たして何か。そのようなカウンセリングを受けた時、クライエントの心はどのように開かれていくのか。そして長い治療の間に、カウンセラーとクライエントの関係はどのように保たれるべきなのかが、まざまざとわかってくる。

 本書によると「信頼できる医師に出会うまで5年」、そして「一人前のカウンセラーになるには25年はかかる」そうだが、これを読み大いに納得。豊富な実例と緻密な取材から、その難しさが高い説得力をもって伝わってくる。

 様々な患者の取材はもちろん、著者自らカウンセリングを受け、臨床心理学系の大学院にまで入り書ききった「セラピスト」。これぞまさしく“ザ・ノンフィクション”といえる大作だ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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