川あかり 葉室麟

 ひとびとのためにやると決意したのだ、と自分を叱咤した。たとえ、歯が立たない相手であっても、どんなにみっともない結果になろうとも、全力を尽くすのみだ。
(本文引用)
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 面白い小説を読むと、「ドラマ化してほしいな」「映画化されたらいいな」などと考えてしまうが、この小説はちょっと違う。

 「舞台化してほしい」

 そしてできれば、演出は三谷幸喜さんで、主役は溝端淳平さんで、あの役は相島一之さんで、あの人は梶原善さんで、あ、あの二人は宇梶さんと壇蜜さんの西大阪スチール(@「半沢直樹」)カップルがいいな。そして皆が仏像を隠す場面ではああなって、七十郎を助ける場面ではこうなって・・・うゎっ、おっもしろそう!

 そんな様々な妄想をめぐらせながら、もう体中が痒くなるほどウキウキしながら一気に読んでしまった「川あかり」

 時代小説の雄・葉室麟先生が放つ、とびきりチャーミングな娯楽小説だ。
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 軽格の武士・伊東七十郎は、藩内一の臆病者。刀どころか蛙すら怖くて仕方がない。そんな七十郎に、ある日、家老暗殺というとんでもない命が下される。
 びくびくしながら、家老を待ち伏せる場所へ向かう七十郎だが、その途中、思いもよらぬ足止めを食う。大雨による山崩れで、川が渡れないのだ。仕方なく七十郎は、土手近くの安宿に泊まることとなる。
 ところが、そこで出会った者たちは、ひと癖もふた癖もある者ばかり。寝食を共にするうちに、どうやら盗賊のにおいすら・・・。

 七十郎に色仕掛けをする女、宿に乗り込むDV夫、突然の家宅捜索・・・。いわゆる“悪党”どもに囲まれる日々の中、七十郎は、無事にミッションを成功させることができるのか?
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 本書のタイトル「川あかり」は、「日が暮れて、あたりが暗くなっても川は白く輝いている」風景を指すらしいが、それはまさにこの物語そのもの。
 その気の弱さ故に、藩の派閥抗争に飲み込まれ、どう考えても勝ち目のない上意討ちを強いられ、もはや虫けらのように扱われる七十郎。
 完全に軽んじられていることがわかっていながら、馬鹿正直なほどに人に優しく誠実に向き合う七十郎の姿は、正直に言って日の当たる場所を歩くタイプではない。
 しかし物語が進むほどに、どうだろう、七十郎の周りには明かりが見えてくるのだ。

 なかでも「臆病者の武士」と嘲っていた安宿の住民たちが、次第に七十郎に味方するようになり、ついには一枚岩となって七十郎を守ろうとする姿にはもう涙、涙。
 こういった筋書きは、よくある青春ドラマのようであるが、やはりいいものはいい。
 ともすると嘘や謀略がまかりとおる世の中、「真実が人の心を溶かす」ことを嘘でもいいから信じさせてくれるストーリーは、心洗われるものだ。

 しかもこの物語には、ユーモアもある。
 クセモノぞろいの宿の面々が、阿吽の呼吸で幾多の難を逃れる描写には、思わず抱腹。これが舞台で上演されたら、観客席はドッと湧くことに違いない。ああ、舞台化してくれないかなぁ。

 そして、七十郎が本当に守るべき存在を知っていく経緯も、実に味わい深い。
 登場する美しい女性たちのなかで、揺れ動く七十郎。そんな優柔不断な彼が、最後に、愛する人を迎えに行こうと一歩を踏み出す。そのラストシーンには、川だけでなく、読む者の心もパァッと明るくなること必至だ。

 スイスイ読めるが、「人間の真の強さとは何か」を唸るほど考えさせてくれる。柔らかさのなかに確たる凛々しさを秘めた、傑作である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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