「舟を編む」

 普段はあまり、本を装丁だけ見て買う(いわゆるジャケ買い)ことはないのだが、今回ばかりは違った。

 書店に足を踏み入れ、平積みコーナーを見回した瞬間、私は一冊の本に吸い寄せられた。

 夜の海のような濃い藍色のカバー、帯は月光のごとく淡いクリーム色(+ポップなイラスト入り♪)、表紙をめくると現れる見返しの紙も、同じクリーム色だった。
 本体の天地につけられる飾りとなる花布は、夜空に輝く月そのものの銀色をしている。

 「舟を編む」という文字も銀色で、藍色をバックに堂々たる書体が浮かびあがる。
 背の部分には、古代の帆船のような形状の船が描かれ、いままさに荒波を越えようとするところだ。



 ・・・慎ましさと明るさ、堅実さとユーモアを兼ね備えた、とにかく「この女性と結婚しなければ一生公開するぞ!」と思わせるような美しさをたたえた本。
それが、三浦しをん著「舟を編む」であった。

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 内容は、言葉に魅入られ、それゆえ辞書に魅入られた人間たちが、新しい国語辞典「大渡海」(だいとかい)を作り上げていくストーリーだ。

 辞書編纂メンバーは、どれもヒトクセもフタクセもある個性豊かな面々。

 それを率いるのは、「まじめさん」こと馬締光也。
 クシャクシャの髪に腕カバーという姿で、名前の通りの超真面目人間。
 言葉に対する愛情と知識は天下一品なのだが、それが災いしてか、一目惚れした女性に当てた手紙は難解すぎて意味が伝わらない始末。



 そしてそれに続くのは、社内きってのチャラ男社員・西岡。
 いつもお洒落なスーツに身を包み、つきあった女性は数知れず。

 夏目漱石の「こころ」の感想を聞かれれば、
 「だいたい、これから自殺しようってのに、ふつうはあんなに長大な遺書なんて書きませんよ。小包で遺書を送りつけられたら、だれだってびびるってもんです」(本文引用)
 などとのたまう。
 
 そんな調子だから、人間とくに異性に疎い馬締に苛立つのだが、ついつい馬締の世話を焼いてしまう人のいい若者だ。

三大コレクションと聞いて、かたや「パリ・ミラノ・ニューヨーク」と答え、かたや「切手・カメラ・箸袋」と答えるような凸凹な2人だが、彼らを中心に辞書編纂部は大海に漕ぎ出してゆく。

その後、大渡海完成までには長年の月日が費やされ、人事異動で現場から去る者もいれば、病に倒れる者も現れる。

しかし彼らは、決してくじけない。

各界の専門家から原稿を集め、選んだ言葉は的確か、解説は正しいか、時代に即しているか、紙はめくりやすいか、本は重くなりすぎないか・・・。

などなど数え切れないほどの問題にぶつかるたびに、全員でオールを思いっきり漕いで突破し、ようやく姿を現した辞書「大渡海」は・・・。

 ここで私は思いっきり「!!!」と頭を抱え、膝を打ち、そして大笑いしてしまった!

 いやいやいやいや、ストーリーももちろん面白かったのであるが、こんな仕掛けがあったとは。

 この本をジャケ買いしたっていうことは、書店に入った瞬間から、私自身もこの本のストーリーの中に入っていたってことか!

 うわ~~~~・・・久しぶりに「やられた」感が全身を貫いた。
 買ってよかった。本当にこの本、買ってよかった。
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 これ以上書くと、その秘密がばれそうなので、ここで締めることにする。
 ヒントはこのブログの中にあるのだが・・・。



驚愕度★★★★★
笑える度★★★★★
勉強になる度★★★★★
泣ける度★★★★☆

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