心に太陽を持て 山本有三

 「どうでしょうか、みなさん。ごいっしょに、やさしい歌を合唱してみては。そうすれば、からだも暖まるし、声も遠くまで聞こえると思うのですが。」
 「それはいいお考えですわ。みなさん、そうしようじゃございませんか。」

(本文引用)
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 前回ご紹介した「くちびるに歌を」は、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をテーマにしているが、もうひとつ、これなしでは語れないモデルがある。

「松山先生の好きな詩の一部分です。たしかドイツ人の」
「へえ」
「【くちびるに歌を持て、勇気を失うな。心に太陽を持て。そうすりゃ、なんだってふっ飛んでしまう!】って、そんな感じの詩があるとです」

 (「くちびるに歌を」より引用)
 
 そう、それはこの「心に太陽を持て」という詩。
 今回ご紹介する「心に太陽を持て」は、その詩にもとづいた珠玉の物語集である。


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 ページを開くとまず飛び込んでくるのは、「心に太陽を持て」の詩、そして團伊玖磨作曲による楽譜である。

「心に太陽を持て。
 あらしが ふこうと、
 ふぶきが こようと、
 天には黒くも、
 地には争いが絶えなかろうと、
 いつも、心に太陽を持て。

 くちびるに歌を持て、
 軽く、ほがらかに・・・」

 と詩はつづく。

 そして第1話「くちびるに歌を持て」。これはまさに、唇に歌を持ったことで命が助かる人間たちの、温かくも凄絶な物語である。

 ある濃霧の夜、スコットランド西側の海で船が沈没。多数の乗客が海に投げ出される。そのうちの男性がひとり、海の中を漂い救助を待っていると、どこからか美しい歌声が聞こえてくる。彼はその歌声に勇気づけられ、最後の力を振り絞って泳いでいくと、材木につかまる婦人たちの姿が。歌声の主は、そのひとりである若いお嬢さんだとわかる。
 そこで皆は、お嬢さんだけに歌わせるのは申し訳ない。皆で歌おうじゃないかと言い、合唱を始める。すると間もなく、救助のボートが現れるのである。

 このエピソードからは、心の持ち方がいかに今後を左右するか、諦めることなく希望を持ち続けることが、いかに大切かが伝わってくる。
 それはどことなく、ヴィクトール・E・フランクルの著書(「夜と霧」「それでも人生にYESという」等)を思わせる崇高さだ(フランクルは確か「収容所内で、夕日に感動する心を持ち続けた者が生き残った」と語っていたように記憶している)。

 「心に太陽を持て」のなかには、長いものから短いものまで20余りの物語が収められている。また内容も、イソップ物語のようなものもあれば、街で語り継がれるちょっといい話、あの偉人の知られざる苦悩など様々である。

 しかし最も圧倒されたのは、「パナマ運河物語」だ。
 かつて南北両アメリカ大陸に分断されていた大西洋と太平洋。それがつながれば、どんなに航海が楽になるかと、人々は長年考えていた。そこでパナマ地方に運河を掘ることにする。
 が、それは、想像を絶する厳しいものであった。人を寄せ付けない地質、気候、それに伴う伝染病・・・。スエズ運河開通を成功させた経験をもち、当初建設にあたっていたフランスはあまりの過酷さに撤退し、アメリカにバトンを渡す。
 時の大統領ルーズベルトは、この工事の尋常ならざる難しさを鑑み、ある男をリーダーに招聘する。
 かくして、その男ゴーサルズは、工事に携わる数万人もの人間を預かり、心をひとつにして命がけの大工事に挑む。

 この物語は、一見、「心に太陽を持て」というタイトルとつながらないように思えるかもしれない。堅い岩盤を砕き、山脈が走る土地に船を引き上げ・・・と、技術的な面に目が行くかもしれない。
 
 しかし、この物語こそ、心の問題がおおいに左右している。

なさけねえこと、悲しいことは、
みんな大佐に持って行け。
聞いてもくれるし、わかってくれる、
おいらのおやじの大佐どのは。

 これは、パナマ運河で働いていた者たちのあいだで歌われていた歌だ。その「おやじの大佐どの」とは、まぎれもなくゴーサルズのことである。
 彼は工事に携わる者たちを、決して奴隷のように扱わなかった。1人の尊ぶべき人間として、誠実に真剣に、彼らの声に耳を傾け続けたのである。

 そんな彼の心が労働者たちを勇気づけ、歴史上屈指の難事業パナマ運河開通へと結びついたのである。

 これには泣いた。さすがに泣いた。
 もちろん頭脳や技術も不可欠ではあるが、それ以上に、常に明るい心と希望をもちつづけると、これほどまでのことを成し遂げることができるのかと、息をするのも忘れる思いだ。

 パナマ運河は今年で開通100周年。かつて、くちびるに歌を、心に太陽をもちつづけながら、命がけで工事に取り組んだ人たちのことを思うと、心から祝いたい気持ちでいっぱいである。

 ちなみにこの詩、原詩では「なにごともよくなる!」という訳になるところを、山本有三が「なんだってふっ飛んでしまう!」と表現しなおしたとのこと。解説の高橋健二氏によると、「路傍の石」(山本有三の著作)の吾一に重ね合わせて、そのような積極的な表現になったのではないかという。

 そんなエピソードも含めて、この「心に太陽を持て」は、まさに読むだけで心が明るくなる一冊。時に春のように柔らかく、夏のように激しく、そして冬の日差しのように密やかに心を照らし続ける。今がどんなに暗くても、必ず朝はやってくる。この本は、そんなことを心底信じさせてくれる。
 記録的な大雪に見舞われたこの冬、何度でも読み返し、心に春を湛えながら春を迎えたい所存である。



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心に太陽を持て

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価格:515円(税込、送料別)


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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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