くちびるに歌を 中田永一

 自分に問いかけることは自分を見つめること。自分を見つめることは他者から切り離されひとりぼっちになることである。
(「解説」より引用)
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 以前、新聞でこんな記事を読んだ。中高生に「友達にしたいのはどんな子か」と聞いたところ、最も多かった答えが「ノリがいい子」だったという。
 それを読んだとき、心の中に何ともいえない違和感が広がり、大きな疑問がわいた。

 「その子そのものは見ないの?」と。

 たしかに「ノリの良さ」も「その子そのものの姿」のひとつではあろう。「空気が飲める」のも個性のひとつではあろう。
 しかし、周囲と同調することが、そんなに大切なことなのだろうか。周囲と同調できる子とくっつくことが、そんなに大事なのだろうか。「自分自身」と「相手自身」は、どこにあるのだろう?

 そんなことを考えさせてくれたのが、この「くちびるに歌を」
 アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をテーマにした、直球青春小説である。
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 舞台は長崎の西100kmに浮かぶ、五島列島。そこに、NHK全国学校音楽コンクール(通称:Nコン)を目指す中学校がある。合唱部員は女子のみ。Nコン目指して必死に練習を重ねるが、ある日、産休となった顧問の代わりに美人教師がやってくる。そのせいで合唱部は一気に様相を変え、男子生徒が続々と入部を希望する。




 不純な動機で入った男子と、純粋に合唱を愛する女子とでは溝が深まるばかり。真面目に練習をしない男子は無視して女声三部合唱で出場しようと女子は言うが、美人教師は答える。「混声三部」で出場すると。そして言う。 

「だれも切り捨てない。全員で前にすすむ。そう決めたんだ」

 さて、合唱部の行方は?
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 この物語のテーマは「合唱」という、大人数で力を合わせていくものだ。しかし本作品は同時に、「ひとりぼっちになる力」、「ひとりぼっちになった時にこそ発揮される力」を力強く描いているように思う。

 たとえば主人公のひとり桑原サトルは、いつもひとりぼっちだ。特段周囲に嫌われているわけでも苛められているわけでもないのだが、学校では誰ともコミュニケーションをとらず、常にうつむいている。
 家庭の事情により、サトル自らがそういう生き方を選んでいるともいえるが、そんな「ぼっち」のサトルが集団に入ったとき、意外な強さを発揮する。それは、周囲の反応をうかがうのではなく、自分の頭と心で判断する強さだ。

 Nコン本番をひかえたある日、ひそかに恋い焦がれていた女子生徒がピンチに遭う。それは彼女が自分でまいた種ではあるのだが、サトルは全力で「最後まで」彼女を守る。力だけでなく心で、彼女を守り抜くのである。
 そんなサトルの「十五年後の僕への手紙」は、この小説のハイライトであり、おおいに感動的だ。こんな悲しみ、苦悩を抱えてきたのかと、読みながら心がブルブルと震え、涙がポタポタとこぼれてくる。そしてその手紙と、サトルの行動を重ね合わせた瞬間に、ひとりでいることのできる人間の強さ、美しさがはじける。

 この小説には、他にも「ひとりでいること」、「ひとりになりそうなこと」を恐れない生徒が登場し、いずれも強く美しい。

 純粋に合唱を愛するが故に男子と衝突し、雨の中、学校を飛び出してしまうエリ。
 「ノリのいいやつ」だったにも関わらず、勇気を出して男子を練習に誘い出すケイスケ。

 そんな、周囲に合わせることを小休止し、「ひとり」でいることを恐れなくなった子どもたちがどんな歌声を届かせるのか。最後、思わぬ舞台で歌声を響かせるシーンに、その威力が発揮される。

 さて、そんな彼らの十五年後は、どんな人間になっているのか。
 卒業のシーズン、街のあちこちに「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」が流れている今、目を閉じ耳を澄ませながら、想像したい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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