もしも利休があなたを招いたら 千宗屋

 では、お茶のベースとなっているものは何なのかといえば、それこそ、人間関係にほかなりません。(本文引用)
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 「最高に気持ちよく読める、最高に気持ちよく生きるヒント」。
 この本のサブタイトルに、こんなフレーズが浮かんだ(ちなみに本当のサブタイトルは「茶の湯に学ぶ“逆説”のもてなし」)。

 武者小路千家次期家元が著した茶の心。「利休にたずねよ」が面白かったため手に取ったものの、そんな雅やかな世界を理解できるのだろうかと、半ばオドオドしながらページを開いた。
 が、読み始めてすぐに、そんな不安は吹き飛んだ。いや、不安に思うこと自体が間違っていた。縁遠い世界と思うことそのものが、大間違いだった。なぜなら本書は、日常のあらゆる場面で使える「最強のコミュニケーション読本」だからだ。

 著者はまず、千利休を「小さな総合商社の社長」と例え、茶は政治家=武士とのビジネスツールだったとしている。茶でもてなし、礼を尽くし、心をつかむ。そしてその姿は、そのまま己の「プレゼンテーション」となるという。


 こう聞くと途端に、お茶が人と人との信頼関係のうえに成り立つ“営業”のように思え、身近になってくるのではないだろうか。製品を見る以上に、製品を売りに来た人を見る。この人は信頼できるか、この人に任せて大丈夫か。たとえどんなに製品自体が優秀でも、売りに来た人に難があると、あまり買いたいとは思わないだろう。

 そしてそれは、ビジネスシーンに限らない。
 1つひとつの所作から、この人は信用できるか、尊敬できるか、心を許せるか。そんな、ごく基本的な人間関係や信頼関係を構築するヒントが、本書には詰まっている。

 たとえば印象的なのが、「作法に込められた意味」の項。千氏は「作法を知らないからと戸惑うことはない」と前置きし、作法に込められた、非常に理にかなった意味を丁寧に解説していく。

 たしかに茶の所作は、文字にすると難しそうに見える。「立ちあがってそばまで行き」、「一度座ってから」、「底と側面から茶碗を包むように」・・・と何だか肩が凝ってしまいそうだ。
 
 しかしよく考えると、これは全て私たちが「大切なものを扱う際に、自然に行っている動き」なのである。
 お茶を出された場所やお茶と自分との距離をサッとはかり、「まあ、何て素敵な物でしょう。壊さないように気をつけなくては」と思う気持ちがあれば、ほとんど無意識に行っている一連の動きである。

 これは仕事でもそうだ。書類を両手で渡されれば「ああ、一生懸命作成したんだな」とわかるし、両手で受け取ってもらえれば「この人は、自分の想いをわかってくれる」と安心し、たとえ結果が自分の望まぬ方向であったとしても、納得できるだろう。
 つまり誰もが茶の精神をもっている、もつべきである、ということなのである。

 本書のなかで、千氏は繰り返し「自分で気持ちと頭を働かせて」と書いているが、まことその通り。この本を読んでいなかったら、気持ちも頭も働かせることなく、ただ作法の形ばかりにとらわれ、落語「本膳」よろしく飯粒を鼻に突っ込んだり、芋を転がしたりするところであった(ちなみに本書のなかでも、この「本膳」が例に出されている)。

 千氏は、茶事を人間関係の知恵の宝庫というが、本書もまた人間関係を円滑にし、気持ちよく生きるヒントがつまった宝石箱である。
 読みながら、日常生活のあの時あの場面にあてはめては「うんうん、なるほど」とおおいに納得し、しばしお茶の本ということを忘れてしまうほどであった。

 またそれは内容のみならず、千氏の文章のなせる業でもある。
 語られる一語一語が美しく、かといって美辞麗句でなく、スイスイと頭に入ってくる素直な美しさをもっている。お茶同様に「どうすれば読む人に楽しんでもらえるか」を考え抜いたあとがうかがえ、読んでいてたいへん心地好い。出過ぎたことを言うようだが、千氏と交流のある人は、おそらく皆、千氏のことが好きであろうと想像できるような文章であった。若い方らしく、時々「今どき」感のある言葉が出てくるのも楽しい。

 「千利休の再来」といわれる茶人が語る「もしも利休があなたを招いたら」
 利休さんにもてなされるなんて、とカチンコチンにならずに、ぜひ読んでみてほしい。読み終える頃には、心身ともに驚くほどリラックスしているはずである。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
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