小さいおうち 中島京子

 「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたくしが悪うございました、と言う女中なんだ」
(本文引用)
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 誰にも教えたくない、極上の隠れ家レストランのような小説だ。といっても、2010年上半期・直木賞受賞作品であり、山田洋次監督のもと映画化もされる(2014年1月公開)のだから、誰にも教えたくないも何もないのだが。

 赤いお屋根のお洒落なおうち。決して豪邸というわけではないけれど、豊かな生活を送っているということは間違いなく伝わってくる。
 そんな幸せそうな家で起こる、ちょっとしたトラブルや秘密は、周囲の者の好奇心をかきたてるものだ。そしてそれは読者の心をも。


 絵本の「ちいさいおうち」よろしく、激動の時代を見つめつづけた「小さいおうち」の物語は、鈴を転がすような流麗な筆致で人間の暗部をさえざえと描いた、実に見事、いや天晴れな小説だ。
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 主人公のタキは、昭和初期、尋常小学校を出た後に女中奉公のため上京する。
 器用で頭の良いタキは、優秀な女中として、行く先々で頼りにされ可愛がられる。

 そんなタキが最も長く勤めたのが、赤い瓦屋根のしゃれた洋館をもつ平井家。
 玩具会社に勤める主人は、戦闘機等のヒットで景気が良く、美しい奥様も上機嫌。奥様の連れ子である坊ちゃんも含め、タキは影となり日向となり平井家を見守っていく。

 そんななか、日本には確実に暗雲が立ち込めていた。中国や米国との戦争、兵隊にとられる男たち、禁じられる贅沢、お腹をすかせる子供たち、壊れゆく人間性・・・。

 平井家も以前のような華やかさが失われ、赤い屋根の洋館は常にギスギスするようになっていく。

 そこで隠された、ある「秘密」とは?
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こう書くと、単なる「激動の昭和を生きた一家の物語」のように思えるかもしれないが(そのように読んでも十分面白いのだが)、この小説の面白さはそんなものではない。

 平井家に流れる、どこか不穏な空気を、テンポの良い会話や情景描写でなでるように描き、「秘密」を暴くようでなかなか暴かない。
 その焦らしようは、登場人物も読者も一体となって「本当はこうなんでしょ?早く言っちゃいなさいよ!」と突きたくなるほどだが、そのはぐらかし方があまりにチャーミングで品があるので、ついつい許してしまう。

 ところが驚いたことに、私が考えていた「秘密」とは違う、もっと大きな「秘密」が、この小説には隠されていたのである。

 それに気づいた瞬間、読む者は皆、表紙と裏表紙を改めて見つめ、この赤い屋根の家の「本当の姿」に目を剥くことだろう。
 小さいおうちの小さい世界がコッソリと描かれているのに、何て大きな想像の翼を開かせてくれることか。

 この不思議な構造の小説が、映画でどのように表現されるのか。スクリーンで最後に映る「小さいおうち」と、私の頭の中で最後に映る「小さいおうち」とどう違うか、いや同じなのか。
 それを劇場で確認するのが、今から楽しみで楽しみで仕方がない。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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