ゼツメツ少年 重松清

 「忘れるな。自分より弱いものを抱いて守ってやってるときの、感触っていうか、気持ちっていうか、ぜんぶ忘れるな」(本文引用)
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 全作品を読んでいるわけではないので、こんなことを言うのもはばかられるが、重松清さんという人は、「正論で相手を打ち負かす」といったことが大嫌いなんだろうな、と思う。
 「正論」の陰には、「常識」や「普通」が隠れている。しかしそれは同時に、そこから外れたものを排除する力となる。度を過ぎれば、暴力だ。

 重松さんの作品には、そんな暴力を頑として許さない強さがある。目にも耳にも優しい、流れるような文章なのに、その中心をとおる芯は誰にもねじまげられない強固さをもち、また誰をも受け入れるしなやかさをもつ。

 居場所を失った少年少女が、作家に「自分を物語に登場させてほしい」と頼む「ゼツメツ少年」。これは、そんな重松作品の集大成といえる異色ファンタジーである。


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 小説家であるセンセイのもとに、ある日、不思議な手紙が届く。

<センセイ、僕たちを助けてください>


<僕たちはゼツメツしてしまいます>

 「僕たち」とは、タケシ、リュウ、ジュンの男女混合3人組。タケシは中学2年生で、リュウとジュンは小学5年生だ。
 
 3人の共通点は、「自分に居場所がない」ことだった。

 タケシは優秀な兄と比べられ、幼稚園でも学校でも家でも疎外されている。
 リュウは、クラスの人気者だったにも関わらず、いじめられた同級生を助けたことがきっかけで執拗ないじめを受けるようになる。
 ジュンはいじめられているわけではないが、家にいるのが辛い状況にある。

 居場所のない生き者はゼツメツするしかないと言い切る3人は、それを何としてでも食い止めるため、センセイに「物語の中で生きること」を許してもらう。

 そこから奇妙な、センセイと3人組とのやりとりが始まる。
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 まず感触としては、何とも不思議な手触りの小説である。全編を通して、虚と実の間をせわしなく反復横跳びをしているような浮遊感がある。
 内容のほとんどは、センセイによる架空の物語。そこには、3人組に居場所を与えてくれる人物が必ず登場する。生涯一度だけの家出が、とりかえしのつかない結果を生んだ若き父親、空に浮かぶ雲ばかりを写真に撮りつづける謎の女性、息子がいじめにあったという経験をもち、ナイフを常備するサラリーマン。

 それぞれの人間が、自分なりの方法で、3人に「とりあえず、そのままの姿で生きてみろ」といったメッセージを送る。
 それはタケシらが、「物語への登場を願った人物」像なのだが、読んでいるうちに、架空ということを忘れて「本当に3人を救ってくれる実在の人物」のような気がしてくる。

 また各章の最後には、「センセイの報告」と題された取材ノートが載せられている。
 家族、幼稚園、学校・・・それらの聞き込みを通じて、3人がいかに現実世界で生きづらかったかが露わになる。

 このような形で第1章から第5章、そして最終章へと続くのだが、徐々にセンセイにまつわる事実が明かされる。
 それは推理小説風に言うと「どんでん返し」や「衝撃の真実」ということになるのであろうが、この物語の主旨はそこではないだろう。

 3人組とセンセイ、そして彼らを囲む人々は誰もが救いを求めていた。時には死んで赦しを乞うことも考えた。絶滅することで全てを消すことも考えた。

 しかし彼らの願いは、ナイフさんと呼ばれるサラリーマンの言葉に集約されるだろう。

「生きてほしかったんだ」

 子どもに対する一番の願いは、夢でも希望でも優しさでも誇りでもなく「生きること」だとナイフさんは言う。
 こうなってくると、この小説の構造がどうであるとか、夢と現が混在しているなどということが全てどうでもよくなってくる(いや、どうでもよくしてはいけないのかもしれないが)。

 「生きてほしかったんだ」
 誰もが思っているはずなのに、忘れがちなこのメッセージを命がけで伝えてくれている。それだけでもう良いではないか、と涙があふれてきた。
 やっぱり重松さんの小説には、誰をも包む優しさと、それを阻むものに立ち向かおうとする強さがある。素敵だ。あまりにも素敵だ。

 今現在、生きづらさを感じている人、どうしようもない孤独感に苛まれている人、そして誰かにそのような思いをさせてしまっている可能性のある「うまく生きている人」にも読んでほしい一冊である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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