自分の体で実験したい ~命がけの科学者列伝~ レスリー・デンディ、メル・ボーリング

 「自殺まがいの考えは捨てるんだ。いつか君が死んでいるのを見つけたら、お母さんになんといえばいい?」
(本文引用)
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 本を読み、己の行動や考えを改めることが、しばしばある。
 それまで「許せない」と感じていたことを許すようにしたり、何気なく使っていた言葉の誤りを正したり・・・読書による効果は実に様々だ。

 しかし本書がもたらす効果は、より具体的かつ実用的だ。
 とりあえず手始めに、「よく噛んで食べる」ことから始めたい。表紙に描かれている、「袋も骨も筒も飲みこんだ男」ラザロ・スパランツァーニ氏の功績をたたえるためにも。

 「自分の体で実験したい」。これは、人々の命を救うために、自分の体を実験台にした勇士たちの軌跡である。
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 この本は10章から成っている。

 まず第1章を開いてみると、タイトルがいきなり「あぶり焼きになった英国紳士たち」(!)。
 これは18世紀後半、「人間はどれだけの熱に耐えられるか」を調べた男たちの記録で、摂氏32度から127度まで室温を上げ、心拍数や皮膚の変化等を調査。その結果、医学の世界に新風を吹き込む驚きの結論を得る。
 (さて問題です。その実験により、それまで重視されなかった「あるもの」が見直されるようになるのですが、果たして何でしょうか。ヒント:今や常識的な体調のバロメーターです。)

 本書にはその他、自ら亜酸化窒素を吸い麻酔法を発見した者、伝染病患者の血を自分の腕に注入し、病名に名を遺した者、蚊を徹底的に退治し黄熱病撲滅に挑んだ者、被曝しながら放射線療法への道を開拓したキュリー夫妻、一酸化炭素を吸いつづけた親子、自らの体で心臓カテーテル法を成功させた者など、驚きの実験が続々と登場。
 どれも無茶苦茶な話に思えるが、前回ご紹介した「『大発見』の思考法」の益川先生同様、実は確実に成功させる算段はあらかじめ整えている。
 たとえば心臓カテーテル法を発明したフォルスマンは、造影剤が血液に混ざることの影響を懸念し、採取した自分の血と造影剤を混ぜた実験をしている。
 当たり前の話だが、ユーモアあふれる内容に見えて、その実、これ以上ないほど大真面目な一冊なのだ。

 なかでも食い入るように読んでしまったのが、「袋も骨も筒も飲みこんだ男」ラザロ・スパランツァーニの実験だ。
 好奇心旺盛なスパランツァーニは、様々な科学実験を行うなかで、「消化」の謎に興味を持つ。
 当時はまだレントゲンもない時代。誰も胃や腸の中を見ることはできなかった。
 そこでスパランツァーニは、あらゆる動物実験を重ねた末、ついに自分の胃袋で実験を行うことにする。

 一口かじったパンを亜麻布の袋に詰め、飲み込む。次は消化を遅らせるために袋を二重三重にして、飲み込む。そしてついには、食べ物を詰めた木製の筒を飲み込む。消化液がしみこむように穴をあけて。

 耳を、と言おうか目を疑うような実験経過に、時を忘れて読みふけったが、そこで決意したのが前述した「よく噛んで食べる」こと。

 噛むのと噛まないのとでは、ここまで結果が違うのかと空恐ろしい気持ちになった。もしあなたが早食いをやめたいと思っているのであれば、本章を読むだけでも絶大な効果が見込めるだろう。

 この本には、各実験の様子の写真も豊富に載せられているため、時空を越えた臨場感を味わえる。「うわっ、本当にやったんだ!」と、ある時は目を丸くし、ある時は顔をしかめるかもしれない。
 しかし、この稀代の勇者たちのおかげで、多くの人間の生命が救われたことは間違いない。ややとぼけた趣きの本ではあるが、楽しみながらも居住まいを正して読むべき本である。

 ただ最後に訳者の方が書いているように、これだけは守った方がよい。

「良い子はけっしてまねしないように」



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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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