銀二貫 高田郁

 「なあ、松吉。一里の道は一歩では行かれへん。けんど一歩一歩、弛まんと歩き続けたら、必ず一里先に辿り着ける」
(本文引用)
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 は~~・・・・・・心洗われるとは、こういうことを言うのか。

 この小説の評判は、新聞等各メディアで聞いていた。どうやらものすごく「いい話」らしいと。
 天の邪鬼な私は、「そんな誰もが感動する『いい話』に引っかかってなるものか」と、頑なに目を背けてきたのだが、最近、心がささくれ立っていたので手に取ってみた。

 結論:
 「もっと早く読めばよかった」

 この本を読もうとしなかった自分を、過去に戻って張り倒してやりたい。と同時に、やや遅きに失したものの、この本を読んだ自分を今は思い切り褒めてやりたい。
 そして今、眼前に広がる風景の何と清々しいことか。


 高田郁著「銀二貫」は、商人の魂を通して、人間の魂を丸ごとスッキリ洗い上げてくれる傑作だ。
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 大坂天満の寒天問屋・井川屋の主人である和助は、道中、侍による仇討ちの場に遭遇する。
 そこで和助が目を奪われたのは、斬られた男の前に立ちはだかる少年だった。
 このままでは少年も斬られてしまう。そこで和助は、懐にあるお金で少年を救う。

 その金額、銀二貫。

 金に直して三十三両にもなるその大金は、火事で焼失した天満宮再建のお金。
 貸付先に頭を下げてようやく回収したばかりの金であり、また天神様に寄進しなければ、祟りで店が傾く恐れもある。
 しかし和助は、そのお金を惜し気なく、少年を助けるために使うのである。

 目の前で父を斬られ身寄りをなくした少年は、「松吉」と改名し、井川屋で働くことになる。
 そんなある日、松吉は懇意にしている料理屋から、こんな言葉を聞かされる。

 「今の寒天に倍の腰の強さがあったら、もっと料理の幅が広がる」・・・。

 その直後、料理屋は大火で焼失。料理屋の主人もその愛娘も行方不明となる。
 悲しみにくれる松吉だが、後に思わぬ形で、新たな寒天づくりを決意することとなる。
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 この小説は全11章から成っており、全章を通じて松吉の成長や井川屋の繁栄が描かれるのであるが、各章で一度は、溜飲を下げる場面や衝撃の真実が明かされる場面があるのが何とも楽しい。

 特に第二章、井川屋が突然、顔馴染みの取引先から付き合いを断たれる物語は、ドラマ「相棒」も顔負けのサスペンス風味の面白さ!
 ハラハラする若者や屈強な男たちをよそに、年老いた和助が冷静かつ気高く事件を解決するプロセスは、読みながら思わず「やったー!」と叫んでしまった。
 このエピソードにいきなり心を鷲づかみにされたため、残り260頁はあっと言う間。
 続く各章も、時に滂沱のごとく涙し、時に快哉を叫び・・・といずれ劣らぬ読み応えであった。

 また作中、寒天料理を作る場面が実に細かく描かれているのだが、何と著者の高田氏は、自分で実際に作ってから書くのだという。
 解説の水野晶子氏によると、高田氏は本小説を執筆中、毎日寒天料理に取り組み、家族を辟易させていたとのことだ。どうりで、読んでいて涎が出てきたはずだ。

 物語の最後、和助と番頭の善次郎は、互いにこう言い合う。天神様に納めるはずだった銀二貫を指し、

「なあ、善次郎、私はええ買い物、したなあ」


「へえ、旦那さん。ほんに安うて、ええ買い物でおました」


 それはこの本にも言える。この値段でこんなに素敵な物語を読めるなんて・・・思わぬ罰が当たるのではないかと、夜も眠れぬ今日この頃である。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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