「下流志向 学ばない子供たち 働かない若者たち」

新聞などで書評や映画評を読んでいると、しばしばこんな表現を目にする。

「値段の価値はあり」

だいたい最高評価は「一食抜いてでも!」といった表現になっており、次が「読み応えあり」、そして最低は「時間があれば・・・」といったところか。
「値段の価値はあり」というのは、だいたい下から2番目ぐらいの評価だ。
観なきゃ損するってわけでもないし、かといって観れば得するというほどでもない。
その本を誰かが貸してくれたり、映画なら鑑賞券でも手に入ればラッキーというぐらいのものだ。

そして気がつくと、多くの人は支払った対価に見合った行動をしようとする。
書店で1800円で買った本ならば、少々面白くなくても何とか読了しようとする。
これが古本屋で100円で買った本だと、途中で読むのを止めようとする。
さらに図書館で借りた場合などだと、その本を手にしたこと自体を忘れてしまいそうになり、手もつけないまま返却期限ということもある。
これが映画だと、当選した試写会だと120分中90分は寝てました、なんてことになる。

つまり、自分が支払った金額によって、支払ったものに対する態度を変えてしまう、ということだ。

そこで、この「下流志向」だ
この本は、いわゆるニートや、またそれ以前の「学ぼうとしない子供たち」について、なぜそのようになってしまうのかを多角的に考察したものである。

本全体を通して主張されていたのが、等価交換の考え方しか持たずに生きていくことの恐ろしさ、哀れさである。

昔の子供たちは、お抱え運転手がいるようなお金持ちにでも生まれない限り、まず家庭内労働、いわゆるお手伝いを相当量行うことが普通であった。
しかし現在の子供たちは、家事労働をする機会がほとんどない。

これはつまり、昔の子供は「労働主体」として、そして今の子供は「消費主体」として、家族という最小単位の社会に参加しているということを意味する。
よく主婦の家事労働を賃金に換算すると・・・といった話があるが、家事というのは日々の生活を少しでも楽しく過ごしやすくしようとするものであり、目に見えて報酬があるわけでもない。
少々気障な言い方をすれば、家族の笑顔が報酬みたいなものである。
時として虚しくなることもあるだろう。

しかし、それを知らずに生きてきたらどうなるか?
その結果が、学級崩壊であり、学力低下であり、果ては児童虐待でもあると説く。
授業に対して10分間ぐらいの価値がないと思えば、あくまでお金を支払う消費主体感覚をもつ子供は、残りの40分をおしゃべりや立ち歩きで過ごす。

「だって、この授業にはそれだけの価値しかないから」
(あれ?何かシャンプーのCMみたいだな)
「だって、数学を学ぶ価値がわからないから。何の役に立つかわからないから」
そして、言うことを聞かず泣き叫ぶ子供に対しては、
「だって、私の努力に、この子が答えてくれないから」

・・・・・

ある意味虚しい労働主体を経験せず、早くから消費主体で育った人間は、全てを等価交換で考えようとする。
よって、学ぶ意欲も働く意欲もそがれてゆく。
だって、自分の消費に、全てが見合わないから。

「ありがとう」も「ごめんなさい」も言わない。
だって、そうやって口を開くだけの報酬が返ってくるわけじゃないから・・・。

__________________________


私はこの本を読み、背筋が凍る思いがした。
小さな子供がいるので、子供にそのような価値観を植えつけてはならない!と思いつつも、
果たして自分はどうであろうか。
等価交換抜きに、子供や家族と向き合えているだろうか。
いやそもそも社会と向き合えているだろうか。

自分の人生や周囲の人々に
「値段の価値はあり」
なんて考えてはいないだろうか・・・と、何十年も培われてきた己の思考傾向が怖く感じられてきた。
はぁ・・・。

ちなみに本書を読んでから新聞やニュースを読むと、報じられている事件や社会現象の背景が、おぼろげながら見えてくる。

消費主体で生きてきたことによる等価交換意識ですべてを説明できるわけではないであろうが、常にそこにヒントは隠されているような気がするのだ。


そういった意味でも本書は、もし等価交換によって評価することを許してもらえるならば、
「一食抜いてでも!」
である。


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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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