でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相 福田ますみ

 この事件の最大の被害者は、騒ぎの巻き添えを食った4年3組の子供たちでもある。
(本文引用)
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 「DIME」2013年10月号において、「『半沢直樹』になるための“必読書”」として挙げられたノンフィクションの傑作。

 「半沢直樹になるための・・・」というよりも、要するに作家池井戸潤氏の心の琴線に触れた一冊とのことなのだが、これほど「ノンフィクションというものの重み」を感じさせる本も、そうそうない。本書を読んでいると、「事実は空想より遥かに異常であるが、事実である限り、空想より遥かに罪深い」ということを想わずにはいられない。

 「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」-これは、ただの「教師対モンスターペアレント」の闘いではなく、「一個人対世間」の闘いをも描いた、誰もが読むべきルポルタージュである。
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 事の発端は、ある家庭訪問からだった。
 小学校教諭の川上(仮名)は、担任クラスの児童・浅川裕二(仮名)宅から、「先生がまだ家庭訪問に来ていない」との連絡を受ける。
 予定では翌日のはず、しかも浅川家からの依頼でそうなったのにも関わらず、母親の和子(仮名)は「今日来てほしい」と言う。
 
 川上は不審に思いながらも浅川宅を訪問するが、そこで和子はしきりに、自分はアメリカで育った、祖父がアメリカ人だということを自慢し、アメリカでの教育について延々と話し続ける。




 川上は和子の長話に閉口しながらも、「子供のことを一生懸命考えているのだな」と思いながら真摯に耳を傾ける。
 
 しかしその翌日、川上は校長から思いもよらぬ言葉を聞かされる。
 「浅川君が、血について悩んでいる」と。そして浅川裕二に体罰をしているのではないか、と。

 その瞬間から、川上の人生は大きく揺らぎだす。
 激しい体罰、自殺の強要・・・浅川家による事実無根の訴えに、校長はただうろたえ、ついに川上は停職6カ月の処分を受ける。
 浅川夫妻はそれでも足りず、川上と福岡市を相手取り、多額の損害賠償を求める裁判を起こす。ついた弁護士は何と550人。

 一方の川上は孤独な戦いを強いられ、絶体絶命の窮地に陥るが、法廷の場で次々と原告側の虚偽が判明、裁判は大きく舵を切っていく。
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 このルポルタージュの素晴らしい点は、誰か1人を悪者にしていないところだ。
 
 浅川夫妻の異常性が元凶であることは間違いないであろうが、川上教諭の脇の甘さ、校長の責任回避、医師の診察の杜撰さ、弁護士の浅慮、保護者たちの事なかれ主義・・・それぞれの罪について、本書は等しく指摘している。そのため、興味本位で読み始めたつもりが、いつしか他人事とは思えない気持ちでのめりこむように読んでいた。「もしかしたら、私も加害者の一人なのかもしれない」と。

 とりわけ目を引くのが、マスコミというものの恐ろしさだ。
 「史上最悪の殺人教師」というセンセーショナルなタイトルを紙面に踊らせ、あることないこと書き立てる。
 私はこの事件の真相については知らないが、扇情的な報道に乗せられて、原告あるいは被告に対して怒りを露わにしたとしたら、その時点で私はどちらかを傷つけた「加害者」になる。
 私は本書を読み、この事件以上に、「誰もが誰かを追い詰める加害者になりうること」に対し戦慄したのである。

 終章において、こんな出来事が書かれている。
 川上が担任をはずされてから、子供たちが裕二に対し「穢れる、近寄るな」と言っていじめだしたという。
 あわてた大人たちが「川上先生の口真似なのではないか」と事情聴取をしたところ、実は川上とは全く関係のない、意外なものから発した流行語だった。

 この一幕は、「思い込みで物事を判断することがいかに危険か」を考えさせる、秀逸なエピソードである。

 世にはびこる事件、事故・・・それに対し、私たちはどう向き合うか。情報にどう耳を傾けるべきか。
 それらを根底から考えさせてくれる名著である。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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