祈りの幕が下りる時 東野圭吾

 「一方向から見ているだけでは、本質はわからないってことだ。人にしても土地にしても」
(本文引用)
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 名刑事・加賀恭一郎の捜査方針といえば、ずばりこれであろう。

「どれだけ無駄足を踏んだかで捜査の結果が変わってくる」

 
 たとえば2009年に出版された「赤い指」では、一軒一軒住宅の庭を見てまわり、その芝生の様子から容疑者宅を割り出していく。その様子は、読んでいるだけで眩暈がしてくるほど根気を要するものだった。
 しかし加賀は決して、諦めることもブレることもなく緻密に捜査を進め、確実に真実を見つけ出す。
 
 そこがこの、東野圭吾「加賀恭一郎シリーズ」の持ち味。

 どんなに周囲に呆れられても“無駄足”を止めず、次第に彼の真剣さに打たれた周囲までもが“無駄足”を運び始め、最後はそれが見事に報われる。

 東野圭吾最新刊「祈りの幕が下りる時」は、そんな本シリーズの真骨頂ともいえる作品だ。
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 時は数十年前にさかのぼる。
 仙台でスナックを営む宮本康代は、田島百合子と名乗る美しい女性を雇うこととなる。
 理由あって家を出てきたという百合子だったが、その憂いある美貌と勤勉さで、店を活気づけていく。
 しかし次第に百合子は体調を崩しはじめ、ついに帰らぬ人となる。
 実は百合子には一人息子がおり、康代は百合子の恋人を通じて、その息子に連絡をとる。




 それから十年以上の時が流れ、東京・下町のアパートで中年女性の死体が発見される。
 その事件を捜査していた、加賀刑事の従弟・松宮は、同時期に河川敷で起きたホームレス死亡事件とのつながりを疑う。

 加賀や松宮ら警察が総力をあげて捜査をしていくうちに、この事件には数十年におよぶ「絶対に誰にも知られてはならない秘密」が隠されていることを知る。

 そしてそれは、加賀にも関係することなのだが・・・?
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 今回ばかりはまいった。本当~に、まいった。
 帯に「東野圭吾、全身全霊の挑戦」とあるが、その言葉に偽りなし!
 五里霧中どころか、何里まで霧の中なのかすらわからないほど複雑怪奇なストーリー展開で、「よくもまあ、これほどの物語を考えられるものだ」と改めて“天才・東野圭吾”に脱帽した。

 たとえば、大きな謎のひとつ「12ヶ月の橋」。
 死亡したホームレスとみられる男性が、カレンダーの端に書き残していたものだ。
 1月は柳橋、2月は浅草橋・・・と全12ヶ月、それぞれ違う橋の名前が書かれているのだが、これが事件に潜む「絶対の秘密」に大きく関わってくる。
 しかしそれがわかるのは、いよいよ残りページが少なくなってから。
 それまで加賀たちは、周辺の橋にまつわるあらゆることを、時に船に乗り、時に数千枚もの写真を集め虱潰しに検証していく。
 その、ジリジリとにじり寄るように一歩一歩真実に近づいていく様は全身が総毛立つほど。まるで自分が犯人になったかのように、「来ないでー!」と叫びそうになった(こうなってくると、もはや東野圭吾がすごいのか、加賀刑事がすごいのかわからなくなってくる)。

 さらに痺れたのが、「関係者間における反応の違い」だ。
 事件の重要参考人に関する情報を、あらゆる関係者から聞き出した結果、「ある1つの出来事」について反応が微妙に違う。
 それに気づいた加賀が、そこから解決の糸口を見出す展開は、胃がひっくり返りそうになるほどスリリング。
 
 またそれが「たまたま」ではなく、小さなチリひとつ見逃さない地道な捜査ゆえであるところがよい。
 読んでいるだけで捜査に協力したような気持ちになれ、解決した時にはまるで、何千ピースものジグソーパズルがようやく完成するような、はたまた長時間格闘しつづけたルービックキューブの6面が全てそろうような、得も言われぬ興奮に全身が包まれる。やっぱり東野圭吾は面白い。

 そしてラストは、どことなく加賀に、大きな人生の分岐点が訪れそうな予感・・・。
 そう、これは新たなる「加賀恭一郎」の幕開けなのだ。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
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