零戦 その誕生と栄光の記録 堀越二郎

 この十年間私たちは充実した日を送った。しかしその間、日本の国はなんと愚かしい歩みをしたことか。
(本文引用)
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 映画「風立ちぬ」について、「特攻で使われた兵器の開発者を描くなんて・・・」という批判の声があるらしい。(朝日新聞 2013/8/7 朝刊 オピニオン面)

 映画を観たかぎりでは、それについて特に感想をもたなかったが、本書を読み、私はこう断言したい。
 堀越二郎氏は、特攻に、いや戦争そのものに対し、悲しみと怒りを強く感じていたに違いない、と。

 太平洋戦争の主力戦闘機「零式艦上戦闘機」、通称「零戦」。
 米軍のパイロットをして「退避してよいのは、雷雨にあったときと、ゼロに逢ったとき」とまで言わしめた「零戦」。

 
 本書は、その設計主任の目から見た航空技術史上最高の戦闘機と、戦争の記録である。
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 時は昭和12年10月。三菱重工業名古屋航空機製作所に勤める堀越二郎は、上司の服部(※映画にも登場)から1通の書類を手渡される。
 その書類とは、「十二試艦上戦闘機計画要求書」。後に零戦となる戦闘機の計画要求であった。
 その内容を見て、堀越は目を疑う。

たとえていえば、十種競技の選手に対し、五千メートル競走で世界記録を大幅に破り、フェンシングの競技で世界最強を要求し、その他の種目でも、その種目専門の選手が出した世界記録に近いものを要求しているようなものであった。


 そう、ひとつの性能も犠牲にすることなく、航続力、空戦性能等全てにおいて最高レベルを要求するものだったからだ。

 堀越は設計主任として、その今までにない大構想に取り組むこととなる。

「はたして、こんな飛行機が設計できるのか。」


「この要求のうちのどれか一つでも引き下げてくれれば、ずっと楽になるのだが-。」


 堀越ら設計チームにとって、血の滲むような日々が始まった。
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 本書の魅力のひとつは、まず零戦完成までの様々な試行錯誤が、実に細かく書かれている点だ。

 かつて設計してきた戦闘機での成果を振り返りながら、エンジンを決め、プロペラを選び、重量軽減や空気抵抗に頭をひねる。
 とりわけ最大の難関だったという、重量軽減への挑戦が面白い。
 既成概念を取っ払い、計算に計算を重ね、新しい材料があると聞けば現物を見に飛んでいく。
 そうして改良に改良を重ねていくのだが、その過程から、この戦闘機に携わる者たちの尋常ならざる熱い思いがビリビリと伝わってくる。
 なかでも驚いたのが、パイロットが命を賭けて、零戦の弱点をつかもうとしたエピソードだ。
 腕の立つ若き大尉が試作機に乗り、墜落。それまでにも1名犠牲者はいたものの、たいていは墜落しても、パイロットはパラシュートで逃れている。
 しかしその大尉は、飛行途中に起きた事故原因をつかもうと格闘した末に、機と運命を共にしてしまう。その「零戦完成」へのチーム一丸となった執念には、敬意とともに恐ろしさすら感じる。

 そして本書のもうひとつの魅力は、堀越氏の万邦協和の心だ。
 「ゼロ・ファイターを製作している会社の社員では」と三菱系の社員を礼遇するオーストラリア人に感激し、自ら手掛けた機の戦果が隣国・中国で試されたことに胸を痛める。

 特に堀越が心情を露わにしているのが、神風特攻隊の青年たちへの言葉だ。
 米国の巧みな戦法に、早々と日本の敗北を悟っていた堀越は、そこまでして日本が食い下がったことに疑問を呈する。

なぜ日本は勝つ望みのない戦争に飛びこみ、なぜ零戦がこんな使い方をされねばならないのか、いつもそのことが心にひっかかっていた。


 堀越氏は「あとがき」でも、己の飛行機人生のなかで最も心を傷めたのが神風特攻隊のことであったと語り、戦時下では言うことのできなかった怒りや悲しみを、こうして本書にしたためてくれている。そのような心情を吐露できるようになるまで、どれほどの苦悩があっただろうか。

 恥ずかしながら、おそらく私は映画「風立ちぬ」がなかったら、本書を手に取ることはなかったであろう。
 しかしこのたび、映画と書籍を通じ「かつて、技術者であることと人であることとの狭間で揺れながら、懸命に生きていた人がいた」という事実に触れることができ、改めて深い感慨に浸っている。

 また本書を読み、宮崎駿氏が堀越二郎氏をモデルに映画を作ろうとした気持ちがわかった気がする。(※ちなみに、映画「風立ちぬ」の堀越二郎と、本書の堀越二郎とは違う面も多々ある。たとえば本書における堀越氏の文面からは、幼い息子さんがいる様子が見てとれる。)
 解説に、宮崎駿氏が「ポニョ」制作中に「頭の中が堀越二郎でいっぱいになった」経緯等が書かれているが、おそらく宮崎氏は、自分の姿を堀越氏に重ねたのではないか。
 生意気なことを言うようだが、本書を読み終えた今、そう思えてならない。

 堀越二郎氏は、終戦の玉音放送を聴いた瞬間、万感の思いがこみ上げ「これで私が半生をこめた仕事は終わった」と思ったと語る。
 この言葉を胸に、宮崎駿氏の引退会見に耳を傾けてみたいと思う。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
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