つぶやき岩の秘密 新田次郎

 「ひとりで登ってこい。どんなことをしても自分の力で登らなければならないと思えば登れるものだ」
(本文引用)
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 恥ずかしながら、新田次郎氏がこんなに面白い児童文学を書いているとは、知らなかった。

 書店で「新潮文庫の100冊」として平積みされていたのを見かけ、「新田次郎の本なら読み応えがあるに違いない」と思い購入したが、内容は私の想像とは全く違うものだった。
 それは、大人が命がけで山に登るノンフィクション小説ではなく、謎と恐怖と純真な心のきらめきに彩られた冒険小説。
 思っていたものとは違ったが、思っていたものよりも遙かに心が沸き立つ、夢のような-悪夢のような白昼夢のような-物語であった。
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 小学6年生の紫郎は、毎日、近所の海を訪れる。そこで紫郎は、黒岩に耳をつけるのが習慣となっている。その岩から、母の声が聞こえてくるように思えたからだ。


 紫郎の両親は、紫郎が2歳のときに海難事故で亡くなった。顔も声も覚えていない母を恋い慕うように岩に耳をつける紫郎だが、ある日、岩壁に一人の老人が立っているのを見かける。
 老人が立っているのは、とうてい人が立ち入ることのできない場所。
 紫郎は、その老人の正体を追うことを決意する。

 しかしそれは、あまりに危険な行為だった。
 謎の老人は、戦争中に隠された大量の金塊を手に入れようとしているのではないか-そんな仮説が持ち上がり、紫郎の協力者たちは、次々と生命の危機にさらされることとなる。

 夜中だけ外を徘徊する地元の有名人、都会からやってきた得体の知れない男・・・紫郎たちの命を狙うのはいったい誰なのか?
 そして両親は、本当に事故で死んだのか?
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 この本を読みながら、私は小学校時代の、あるトキメキを思い出した。
 「怪人二十面相」「少年探偵団」「シャーロック・ホームズ」「黄金仮面」・・・子供の頃に誰もが読んだであろう江戸川乱歩やコナン・ドイル、横溝正史、ちょっと大きくなってから読み始めたディクスン・カー。
 幼な心に、背中に翼が生えたような気持ちになったあのミステリーや大冒険を、この「つぶやき岩の秘密」は鮮明に思い出させてくれる。

 そして、さすが新田次郎。
 読む者に「生きる厳しさ」と「それに立ち向かう勇気」を奮い立たせてくれる迫力は、大人向けの山岳小説と変わらない。いや、これから成長する子供達のために書いただけに、より熱いかもしれない。

 たとえば冒頭に挙げた、紫郎の担任教師の弟・晴雄の言葉。

「ひとりで登ってこい。どんなことをしても自分の力で登らなければならないと思えば登れるものだ」


 大学の山岳部に所属する晴雄は、身の危険も顧みずに紫郎と共に真相究明に乗り出す。そこで2人は、あわや窒息死というピンチに追い込まれるが、晴雄の冷静な頭脳のおかげで脱出に成功する。
 
 しかし晴雄の素晴らしさは、その頭脳とサバイバル技術だけではない。
 小さな少年の“真の成長”を助けようとする、強さと温かさだ。

 ただ事件を解決するのではなく、それを通して紫郎の成長をも果たそうとする晴雄の姿は、子供を持つ身として、思わず襟を正して読んだ。

 新田次郎氏は、この物語を書いた動機を聞かれ「これはおじいちゃんが書いた少年少女小説だと自慢できるようなものを残したいという気持ちで(児童文学の叢書作りに)参加した」(あとがき引用)と語っておられたそうだが、本書は全ての子供達、そして子供達を見守り育てていく大人たちにとっても指針となる書であろう。

 耳を当てると、新田氏の、人々に対する願いや想いが聞こえてきそうな、胸躍り心引き締まる傑作である。

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名作ですね

はじめまして。
曖昧な記憶で恐縮ですが、たしか小学5年生のころ、新潮社の箱入りハードカバーで読みました。懐かしいです。
昭和の最後あたりに、少年ドラマシリーズのVHSビデオソフトが数タイトル発売され、その中の、「つぶやき岩の秘密」「ユタとふしぎな仲間たち」「なぞの転校生」の3作品を買いました。
「ユタとふしぎな仲間たち」の原作は上記の新潮社版、「なぞの転校生」は鶴書房のSFシリーズを今も保存しています。
ビデオで「つぶやき岩の秘密」を見たとき、その時点でさえ十数年ぶりに石川セリ(井上陽水の奥さん)が歌う主題歌を聴けて、とても嬉しかったことを思い出します。

コメントありがとうございます。

びょうせい様

コメントをくださいまして、どうもありがとうございます。

あとがきや他の方のレビューなどを拝見するかぎり、本小説およびドラマの思い出には、石川セリさんの歌が欠かせないようですね。
きっとリアルタイムでドラマをご覧になっていた方は、当時、本当にドキドキしながらテレビの前に座っていたんだろうなと、思わず頬がゆるんでしまいます。

「なぞの転校生」・・・このタイトルを読み、転校生に対してちょっとドキドキワクワクした、子供の頃の気持ちを思い出しました。社会人になると失われてしまう感情ですね・・・。

どうもありがとうございました。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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